本コラムでもご紹介してきましたように、最近はコンピュータがプロ棋士を破ったりするようになってきましたが、コンピューターはどこまで人間に近づいたといえるのでしょうか?

 コンピューターの能力が人間並みになったかどうかの試験として「チューリングテスト」というものがあります。これは、数学者のアラン・チューリングが1950年に考えた方法で、審判が、壁の向こう側に置いたコンピューターおよび人間(「サクラ」と呼ぶ)と問答して、人間とコンピューターを区別できなければ「コンピューターは人間並みに考えることができる」とするものです。

 当時、チャットはありませんでしたから、サクラとコンピューターはターミナルを通じて審判とやりとりをすることになっていました。 チューリング自身は、「コンピューターが3割の審判を騙したら、コンピューターも思考できると認めよう」という基準を提唱し、以来AI(人工知能)の研究者を中心に、コンピュータで審判を騙すという挑戦は続けられてきました。

 チューリングテストの最も代表的な行事として、 1991年以降毎年開催されている「ローブナー賞」大会があります。この大会では、優勝者に「最も人間らしいコンピューター」賞(銅メダル)が与えられ、半数の審判を騙せたら銀メダル、審判全員を騙せたら金メダル(「メッキではなく純金」と書かれている)が与えられます(http://www.loebner.net/Prizef/loebner-prize.html)。

 最優秀のサクラには「最も人間らしい人間」賞が与えられます(これが、本書の原題「The Most Human Human」になっています)。 哲学とコンピューター科学で学士号を、詩の美学で修士号を持つ著者はこれに興味を持ち、2009年の大会にサクラとして参加することになりました。

写真●『機械より人間らしくなれるか?』 (ブライアン・クリスチャン著)
写真●『機械より人間らしくなれるか?』 (ブライアン・クリスチャン著)

 2008年大会までには、チューリングの3割基準は未だ破られていませんでしたが、それまでの上位入賞プログラムの中には企業の自動カスタマーサービスに実用化されるものもでるなど、現実の応用も出てきて、コンピューターの方も随分と手強くなっていました。主催者は「自分らしくいれば良い」と助言しましたが、著者にはそれだけでコンピューターに勝てるとは考えられませんでした。 『機械より人間らしくなれるか?』(草思社)は 、「いかにしたら審判に自分をもっとも人間らしい人間と認めさせることができるか」についての、著者ブライアン・クリスチャン氏による研究と思考の記録です。