医療の質を高めると同時にコストを削減するために、ビッグデータの活用は有効な手段だ。ただし、病院内の情報をいくらかき集めても、それを分析して実際に活用できる人材「データサイエンティスト」がいなければ、無用の長物となってしまう。2014年7月16日~18日まで開催された国際モダンホスピタルショウ2014で行われた、岐阜大学大学院 医学系研究科 医療情報学分野 教授の紀ノ定保臣氏と、広島赤十字・原爆病院医事顧問の西田節子氏の講演内容から、医療界でも始まりつつあるビッグデータ活用とデータサイエンティスト育成についてまとめた。

 今、医療の世界でも「データサイエンティスト」が脚光を浴びている。ビッグデータを集めて解析し、その中から役立つ指標を見つけ出す役割を果たす彼らは、医療の世界でこそ大きな成果を出すのでは、と期待されている。医療界は、他の分野に比べて業務や経営の効率化が徹底しておらず、まだまだ改良の余地が多くあると見られているからだ。

 一方で病院は、患者のバイタルデータ(血圧や体温、心拍数など)をはじめ、注射や経口薬剤のオーダーデータ、来院者やスタッフの動線データなど、データの宝庫ともいえる環境にある。

時間がかかり過ぎ、というクレームを減らす

写真1●岐阜大学大学院 医学系研究科 医療情報学分野 教授の紀ノ定保臣氏
写真1●岐阜大学大学院 医学系研究科 医療情報学分野 教授の紀ノ定保臣氏
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 岐阜大学大学院 医学系研究科 医療情報学分野 教授の紀ノ定保臣氏は、「ビッグデータを活用した医療の質向上」と題して、大学病院でのビッグデータ活用に関して講演した(写真1)。

 岐阜大学医学部附属病院は、病院全体で医療データを共有し活用するために、データウエアハウスを導入。診療科ごとの縦割りを排除し、データを中央のサーバーで一元管理。このデータを、院内のどこでもリアルタイムで閲覧・利用できる環境を整えている。

 まず、患者の動線を分析したケースについて説明した。多くの病院では、訪れる患者数は全体で○人、何科受診△人、検査が□人というデータを取得している。だが、データを部署ごとに記録しているのみの場合が多いという。