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IT化が踊り場を迎えた時代に求められる能力
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 ITバブルは崩壊した。しかし,電子政府・自治体の構築や企業の経営構造改革,そして様々な制度改革など,IT活用の基盤づくりは着実に進んでいる。これからの行政や企業の変化の方向性とその中で求められるITの役割とは何か。国のIT政策や地方自治体の動向に精通しているスタンフォード日本センター理事,株式会社ヤス・クリエイト代表取締役社長 安延 申氏に話を聞いた。
安延 申氏

競争力を強化するためのツールとしてのIT活用が求められている

 今,IT化は踊り場を迎えている。アメリカの株価を見ると,鉄鋼や化学,食品といった伝統的な業種が中心のニューヨーク株式市場はピークに比べて約20%ダウンした。一方,IT関連企業がほとんどを占めているNasdaqの指数は平均で3分の1になっており,下がり方からみるとNasdaqの方が非常に大きい。これほど下がった理由を考えるには,逆にITバブルといわれるほど,どうして上がった時期があったのかを考えた方がわかりやすい。ITバブルに上り詰めていく時期には,ITを使えば何でもできるという誤解があった。つまり,すべてのビジネスがeコマースになるのだと。しかし,eビジネスの代表格であるアマゾン・ドット・コムが典型だが,そこで取り扱っている商品は書籍であり,従来型の書店と小売市場でパイを奪い合っているのが現状だ。eビジネスになったら,マーケットが3倍に拡大するわけではない。

 一方で,マーケットが一挙に数倍から数十倍になるケースもある。最近ではiモードがその代表例で,かつてのTVゲームやパソコンもそうだった。音声通話の道具でしかなかった携帯電話がインターネット技術によってメール通信やゲーム・音楽のダウンロードができるツールに変貌し,全く新しいマーケットを作った。ITバブルに上り詰めていく過程では,ITを活用すればすべてiモードのような新しいマーケットが出現すると皆が思いこんでいた。

 ところが,実際にはITは既存ビジネスの競争上の優位性を作り出すツールという側面の方が圧倒的に大きかった。それがわかった途端に,投資が必要でリアルのコストもかかるという当たり前の現実に直面した。そうすると今までの反動で,「IT革命は幻だ」という意見があちこちで聞かれるようになった。

 本当にそうだろうか。アメリカでは完全にITが定着した分野がある。代表的なものが,旅行代理店,航空会社のチケット予約や個人投資家向けの証券取引である。これらのマーケットでは,もうIT利用なし,ネット利用なしではビジネスが成立しない。このように,確実に,競争ツールとしてのITが確立した産業分野が生み出されてきているのだ。実は,競争に勝ち抜くためのツールとしてのITの側面は,すべての産業で応用できるわけだから,市場としては新しいマーケットを作り出すITよりも広い。ところが日本ではまだITバブルを引きずっており,新しいマーケットを作り出すITへの幻想が残っている。ベネフィットがこれだけあるからいいではないかという話ばかりで,コストに目が向けられていない。

 しかしながら,このところ日本でもようやく民間企業を中心に,「待てよ,このままでいいのか」と考えるようになってきた。それが踊り場に来ているという意味だ。何のためのITなのか,ビジネス・プロセスの改革をするのか,新しいマーケットを作り出していくのか,その効果はどの程度でコストはどのくらいなのか,などを考えるようになってきた。つまり,競争力を強化するためのITという意識が相対的に高まりつつあるのだ。


コストと効果の定量化によってシステム導入の仕方を考える

 日本とアメリカのソフトウエア業界を比較すると,日本は受託開発が7割,プロダクト(標準製品)が3割である。ところがアメリカはちょうどその逆で,プロダクトが7割を占めている。アメリカの行政府のIT化ルールには,「オーダーメイドはできるだけ少なくし,特殊用途のシステムは作るな。その方が結局,安くシステムを利用できる」という趣旨が述べられている。これは,例えば,OSやネットワークの基盤技術が変化したときでも,パッケージの方が更新投資などが安く済むし,民間との関係でのデータ共有などが有利だからだ。ところが,日本ではオーダーメイドで,仕事に合わせてシステムを開発する「私だけのシステムを作る」という風潮が,とりわけ官公庁や自治体で根強く残っている。本来,スタンダードなプロダクトを組み合わせて使い,それに業務のやり方を合わせていく方が,システムのライフサイクルなどを考え合わせても,はるかにコストを低く抑えることができる。そうしたところまで考えて,システムを導入しようとしているかどうかの違いが,日米の差となって現れているのだと思う。

 何も,いきなり,すべてスタンダードにしろといいたいわけではない。アメリカの公共機関ではCost Benefit Analysisという方法を使って,システムを導入するとどのくらいコストが節約されるかという点を必ずチェックしている。例えば,地方自治体で窓口を合理化してWebで受け付るようにする場合,役所の人員削減効果だけではなくて,住民が役所に出向かなくて済むことによるベネフィットまで定量化しようとする。そこまでの定量化を厳密に行うことはなかなか難しいが,指標が何もないよりはずっとましだ。その上でコストを見ながら,最適な方法を考えるのである。こうしてチェックした結果,オーダーメイドの方がよいのであれば,そちらを選択すればよいのだ。こうした考え方が日本の行政機関には依然として浸透していないところに最大の問題がある。

 国のIT予算は1996年が1兆2900億円,2002年は1兆9500億円と,年平均で7~8%は伸びている。90年代後半以降これほど資金が投入されている分野はあまりない。市場は成長しているのだ。問題は,それを効果的に使っているかどうかである。ここまでみてきたコスト・ベネフィットと並んで,日本の行政機関に決定的に欠けているのは投資を評価するという観点だ。1億円の予算をすべて開発費や購入費に充ててしまう。そうではなくて,前工程のコスト・ベネフィットの算定と後工程の投資効果の測定に3000万円ほどかければ,より効果的な開発方法を選ぶことができて,開発費は7000万円ではなく,6000万円で十分かもしれない。そうすれば,1000万円が節約できることになる。そういう考え方への転換が今,求められているのだ。


積極的な提案が評価される土壌が生み出されつつある

安延 申氏 では,どのように変えていけばよいのだろうか。トヨタやソニーをはじめ,グローバル展開をしている日本企業は,世界を相手に競争していかなければならないため,原料の購入や工場の立地などグローバルにリソースの最適化を行っている。競争に勝ち抜くためには,そのリソースを有効に活用し,ムダをなくして効率を上げ,全体を最適に稼働させることが必要である。そのためには,デルコンピュータのように,ITをフルに活用して,仕入れから生産,流通までをマネジメントし最適化させていかなければならない。こうしたなか,民間ではすでに多くの企業がITを競争優位実現のツールとして,実践的に活用する段階に進んでいる。

 一方,国や地方自治体もここまで財政が逼迫してくると,効果的にITを活用していくところに踏み込んでいく以外にはない。自治体も大福帳方式ではなく,資産やキャッシュフローのバランスを明確にするように迫られており,外在的な要因からにせよ,変わらざるを得ない状況にある。

 そこで,ITベンダーやインテグレーターに求められるのは提案能力だ。日本のベンダーやインテグレーターは,顧客である行政機関や自治体にいわれたとおりのシステムを開発する能力は極めて高い。「ご注文の通りに作りますよ」ということだ。しかし,この製品とこの製品を組み合わせればこんな新しいことができると積極的に提案していく能力は残念ながら,弱いのが実情である。提案能力を向上させるためのカギは,目に見える形ですべてを定量化して説得材料に使うことである。アメリカの例で具体的にみてきたように,定量化することによって,はじめてコスト・ベネフィットと導入効果を明らかにする糸口ができる。それによって,ITを行財政改革のツールとして活用する具体的な検討が始まるのである。

 制度も少しずつ変わっており,また外在的な環境の変化によって,国や地方自治体もインテグレーターやベンダー・サイドの知恵を求めている。その知恵を出すことができる企業が評価される土壌がようやくできあがりつつあるといえるだろう。



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