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Web=ブラウザ」という時代の終焉/ターニング・ポイントを迎えたWeb開発環境の新たな解とは

vol.1目指すのは,ユーザー・エクスペリエンス。実現する開発環境とは

激変するWebを取り巻く環境

 ここ数年でWebを取り巻く環境は急激に変化している。これまで広告的な新たなリーチの場として捉えられていたWebが,アプリケーション実行の場として認知されてきたからだ。一般の生活の中でも,様々な形でWebアプリケーションが利用されるようになっている。

 また,アプリケーションの世界でも「機能を提供するだけで満足された時代」がまさに終わろうとしている。開発ツールがもたらす生産性の向上や,Webサービスの台頭に伴うアプリケーションの“機能のコモディティ化”が急速に進んでいるからだ。

 特にWebサービスの台頭は,優良な機能の実装を第三者に再利用できる形で提供している。これにより“機能の実装”だけを頼りにアプリケーションの価値を高めることが困難になり始めているのだ。

 例えば,自動車メーカーでは既に「曲がる」「走る」「止まる」といった自動車の基本的機能を売りにしているケースは少ない。インテリアやエクステリアにおけるデザイン,特定の利用シーンに伴う提案といった付加価値によって競争優位の獲得を目指している。アプリケーションの世界でも同じことが起こっているのだ。

 そこで,注目されているのが,「体験=エクスペリエンス」という概念だ。先ほどの自動車業界の例でいえば,顧客に「より良い体験」を提供することによって競争優位獲得を達成していると言える。では,アプリケーションにおける,“より良いエクスペリエンスの実現”とは何であろうか。

 それは主にユーザーと直接向き合うプレゼンテーション層を中心として,どれだけスムーズに,気持ちよくソフトウエアの利用目的を達成させられるかを検討/実装すること。機能そのものだけではない,アプリケーションにおける新たなフォーカス領域が生まれているのだ。

 それでは,Webにおけるエクスペリエンスを考えてみよう。これまではWebといえばブラウザ上でHTMLによって表現できる範囲がすべてであった。HTMLは本来,論理的な構造のみを記述するもの。CSSやAJAXなどの様々な拡張によってできるだけうまく表現しようとしているが,「悪くない」レベルではあっても理想的ではない。一方,利用者はデスクトップ・アプリケーションやOSなどで利用されている,より優れた利用体験に慣れており,HTMLだけでは満足できない状態にある。ブラウザを超えるレベルのエクスペリエンスが求められているのだ。

Silverlightの登場で,Web開発環境の“点が線”に

 こうした状況の中でリリースされたのがWindows Vistaだった。これまでと最も大きな違いはOSを通じて得られるエクスペリエンスであり,マイクロソフトがこの分野に注力している象徴と言えるものだ。

 マイクロソフトはユーザー・エクスペリエンス実装におけるニーズの高まりに応え,極めて開発者人口の多い.NET Frameworkを利用して,ハイレベルなエクスペリエンス実装環境を提供しようというのだ。マイクロソフトにとって武器になるものはこれまで培ってきた開発環境とその利用者人口の厚みであり,実行プラットフォームである.NET Frameworkそのものにほかならない。

 そしてここにきて,マイクロソフトはWebにおけるブラウザを越えたプレゼンテーション層の構築技術として.NET Framework 3.0でのWPF(Windows Presentation Foundation)に加え,Silverlightを投入してきたのだ。これにより,.NET Frameworkを基盤とした包括的なUI開発を目指すマイクロソフトの戦略が明らかになってきたと言える。

●ブラウザを超えたエクスペリエンスを実現するWPF

Mother Earth 〜母なる地球

■「旭山動物園」のWebコンテンツ「Mother Earth 〜母なる地球
立体で表現された地球上に,生息地に応じて動物のアイコンが配置され,それぞれをクリックすることにより詳細情報を見られるという内容。WPFにより美しいグラフィックと使いやすいユーザー・インターフェースを実現している。

 WPFは.NET Framework 3.0に搭載されている新しい世代のグラフィック・エンジンで,これまでのWindows Formsとは違い完全にベクターベースのUIを提供しており,GPUレンダリングをベースとした3Dのサポートや柔軟なテキスト・ハンドリングが特徴だ。レイアウトやインタラクションをXAMLと呼ばれるXMLベースの記述言語で構築する仕組みとなっており,ロジックはASP.NET同様C#やVisual Basic .NETなどのCLR対応言語によるコード・ビハインドで実装することになる。XAMLにはレイアウトだけでなくベクター・グラフィックスによるアセットも含めることができるため,デザイン要素を集中的に作業/管理可能となる。現時点で投入されているマイクロソフトのWebテクノロジーの中で,最高のエクスペリエンスを提供可能なテクノロジーなのである。

 さらに,WPFにはXBAP(XAML ブラウザ アプリケーション)という形式でブラウザ上で展開する方法もあるが,これまでのVisual Studioで開発されたプログラムと同様にデスクトップ・アプリケーションとして開発することも可能にしている。OSで提供される様々な機能(ファイル・アクセスやハードウエア・アクセスなど)を直接利用することもできる。開発されたアプリケーションがWeb上の様々なリソースにアクセスすることによって,まさに「Web=プラットフォーム」と捉えられていたブラウザを越える“エクスペリエンス”を提供できる環境が整ったのである。

●ミッシングパーツを埋めた「Silverlight」

 そして,マイクロソフトのプレゼンテーション・テクノロジーの中でも最も新しいのがSilverlightだ。WPF同様XAMLを利用する。実現できる機能はWPFに対してはサブセットとなり,3Dなどの機能が省略されている。だが,SilverlightはFlash同様ブラウザ・プラグ・インの形をとっており,Internet Explorer以外にもFirefoxやMac OSのsafariなどのブラウザでも動作する。現在は1.0βと1.1αが公開されており,1.0ではHD品質の動画を取り扱えることが特徴であった。1.1になるとさらにマイクロソフトの本気度が見えてくる。1.0では開発にJavaScriptを利用しているが,1.1においては.NET FrameworkのCLR環境がサポートされる。つまり,C#やVisual Basic .NETで作成したプログラムがMac OSのsafariでも動く環境が整うことになる。クロス・プラットフォームでの展開を考えるうえでSilverlightは今後,重要な選択肢となっていくことだろう。

 WPF/Silverlightともに,過去のしがらみによる制限がなく理想的なUI構築が可能なXAMLと,CLR環境によるコード・ビハインドという同様のプログラミング・モデルを持つことで,理想的かつ異なる環境においても同様のスキルセットを活かせるパターンが整ったことになる。

マイクロソフトの回答はチームプレイVisual Studioに加え,新たにExpression Studioを投入

 それではエクスペリエンスを実装する環境について考えてみよう。機能実装の為の開発環境であるVisual Studioの完成度は大変高い。しかしエクスペリエンスの実装において必要な洗練されたデザインを備えたプレゼンテーション・レベルとなるとVisual Studioのレベルを越え始めている。

 そこで,マイクロソフトはデザイナー向けに全く新しいツール群を用意した。先日リリースされたExpression Studioである。アプリケーションのプレゼンテーション・レイヤー構築を様々な形でサポートするツール・スイートだ。WPFやSilverlightにおいてはXAMLを中心とした編集環境となり,レイアウトやインタラクション,メディアの統合などを担うツールとなる。

マイクロソフトのWeb開発環境ツール連携図

■マイクロソフトのWeb開発環境ツール連携図
プロフェッショナル・デザイナー向けツール群のMicrosoft Expression Studioと,デベロッパー向け開発環境Microsoft Visual Studioが連携することで,両者の協業環境が実現し,生産性の高い開発が行える。

 ここで重要なことは,XAMLはExpression Studioで編集することはもちろん,Visual Studioでも同様に編集可能である点だ。デザイナーがデザインしたXAMLファイルをデベロッパーがコード・ビハインドでプログラムをつけた後で,もう一度デザイナーが微調整を行うような双方向のワークフローがXAMLを通じて可能になっている。つまりデベロッパーのための開発環境であるVisual Studio,デザイナーのための開発環境であるExpression Studioの両方がそろい,両者が協業可能になる基盤がそろったということだ。

 マイクロソフトとしては全てを1つのツールで提供することも考えられたはずだが,あえてツールを分けることによって「餅は餅屋」の状態を作り,大規模なアプリケーション開発に対応しようとしているのではないだろうか。かつてカメラマンを中心に手作りで作っていた映画が,大規模なプロジェクトによって分業体制へと移行し,産業に進化したのと同様に,インタラクティブなWebアプリケーション開発の世界にも転換期が訪れている。

 このようなタイミングにおいて,マイクロソフトがプロフェッショナル・デザイナー向けのツール群と,エクスペリエンス提供を支えるプラットフォームを準備したことは大いに意味があるのではないだろうか。

筆者:東 賢  株式会社セカンドファクトリー

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