攻めのカイカクが会社を飛躍させる 経営情報化サミット2006
本誌は、9月6日、東京・目黒雅叙園で「経営情報化サミット2006」を開催した。今回のテーマは、攻めのカイカクが会社を飛躍させる」。8つの講演により、経営改革、事業改革、現場改革のさまざまな可能性を探り、改革を支えるITの役割についてもこれまでとはひと味違う角度から見直した。
誰でもよく知っていることをきちんと実践することから改革が始まる


ミスミグループ本社
代表取締役社長 兼 CEO
三枝 匡 氏

イザナギ・イザナミを超えて、戦後最大になるかもしれないという景気拡大期が続いている。好況がもたらすビジネスチャンスをさらに伸ばすにも、また、拡大期の後に必ずやってくる景気の下降期に備えるにも、いずれの場合でも不可欠となるのが、変化への即応であり、変化に対応できるような企業内部の改革であろう。

こうした企業の浮沈を賭けた改革の重要性を熟知しているのが、「V字回復の経営」(日本経済新聞社刊)の著書もある三枝匡氏である。

三枝氏は、企業再生の専門家として赤字経営の会社の再建を手がけ、次々に「V字回復」を成功させてきた。現在では、機械工業系の部品をカタログ販売するユニークなビジネスモデルの株式会社ミスミグループ本社の社長として、これまでに蓄積したノウハウを、自分の会社を伸ばすために注ぎ込んでいる。

三枝氏が、30代で社長として赤字会社2社を再建し、その後50代にかけての16年間にわたり再建に取り組んだ企業は、数百億円企業から1兆円企業までの大企業だけでも5社にのぼる。業種もさまざまである。しかし、事業の原点は、共通しているうえに、きわめてシンプルであるというのが、三枝氏の長年抱き続けてきた持論だ。

どのような企業においても、事業の原点とは、「創る、作る、売る」のサイクルであると三枝氏は言う。こんな単純なことで改革ができるのだろうかと誰もが思うところだが、三枝氏の言葉は、「サイクル」というところに重みがかかっている。つまり、開発、生産、販売は常にサイクルで回っていなければならないということなのである。

図1:三枝匡氏が考える「事業の原点」
「創る、作る、売る」のサイクルを速く回すことのできる企業は勝ち残る。
大組織になるほど、顧客の反応のフィードバックに時間がかかり、サイクルが回りにくくなる。

商品を売った後、顧客からのリアクションがある。これを速やかに開発、生産、販売の全部門へフィードバックして、次の商品に反映させなければならない。このサイクルを速く回す企業は勝ち残る。赤字経営の会社は、サイクルが動いているように見えながら、詳細にチェックすると、組織や部署の壁にはばまれてサイクルが止まっていることが多い。商売のサイクルは、会社全体で何となく回すものではなく、商品一品一品ごとに、はっきりとスピーディに意図的に回すことが大切なのである。


冷静な計算と熱心を秘めて変革する経営者は「死の谷」を超える

三枝氏がもうひとつ強調したのは、改革を成功させる最大の要素は、社員の気持ちだということである。

社員の心を動かし、改革に向けて努力する体質へと変身させるうえで必要になるのが、「ショック」である。

「徐々に組織のレベルを上げていくという考えでは改革はできません。変革する経営者はみんな意図的に修羅場をつくり、覚悟を決めて飛び込むしかない状況をつくっています。当然、最初の時期は社内が不安定になります。しかし、不安定化のステージなくして、改革はあり得ないのです」と三枝氏は強調する。

変革する経営者は、不安定な心理がどんどん悪化していく時期を経験し、これを乗り越えなければならない。クールで緻密な戦略・計画をシンプルなストーリーで語り、不安定化のステージを先頭を切って切り開いていく熱意ある姿を見せることで、社員に「熱き心」が生まれ、全社一丸となった改革がV字回復へとつながっていくのである。


抜本的な解決策は発想を変えなければ見えてこない


リコー
取締役専務執行役員
CSO CINO
遠藤 紘一 氏

三枝氏の講演で印象的だったのは、奇抜な方法論や目新しいシステムの話ではなく、サイクルを速く回すことの重要性や社員のマインドの重要性など、誰もがあたりまえと思える基本的な事項を強調したことである。

この印象は、株式会社リコー取締役専務執行役員遠藤紘一氏による経営改革の成功事例紹介でも、共通するところがあった。

リコーは、1991年に業績の急激な悪化に直面した。この時期は、リコーの主製品である複写機やプリンターが、アナログからデジタルへと切り替わる転換期にあたっていた。

1992年から93年にかけて、リコーは事業のあらゆる局面で思い切った改革に取り組んだ。そのひとつが、「Σ-E」と呼ばれる部品調達改革である。

図2:リコーの部品調達改革「Σ−E」の考え方
オフィス機器の開発・構想段階で、2年後の発売時期に「旬」となる電子部品を選んでおくことは、サプライヤーからも歓迎された。
メーカー・サプライヤー・エンドユーザーが「Win-Win-Win」の関係を築けるのである。

1992年当時、デジタル機器に不可欠である電子部品は、製品コストの1/3強を占めるほどに高価だった。技術革新もどんどん行われるため、電子部品メーカーが生産打ち切りを決めると、代替部品を探したり、買い溜めをして倉庫にストックしたりで、大変な手間とコストを要していたのである。

リコーは、発想そのものを変え、生産打ち切りにならない部品を選択するところへ改革の力を集中した。部品情報を収集し、それを搭載したオフィス機器を売り出す時期に「旬」を迎える部品を見極めるため、2年後までの情報を含む部品情報データベースを構築したのである。電子部品の種類も、35000点から3000点へと大幅に集約した。

その結果、高機能かつリーズナブルなコストのフューチャーベスト部品を、商品の発売時期に合わせて入手できる体制を確立することができたのである。


改善の積み重ねをナレッジに変え改革へと進化させる

このほかにもリコーの改革は、国内・海外の販売商品の整理、サプライヤーとの関係再構築、不採算・新規事業の見直し、在庫削減、コストダウン、経費改善、組織の簡素化と人のシフトなど実に多岐にわたる。

今やリコーは1994年から連続して売上増を記録し、2兆円企業に成長した。1990年当時の約2倍の売上を、当時より少ない社員が生み出しているのである。

改革に取り組む姿勢として遠藤氏が勧めたのは、問題を複雑に解くのではなく、やさしく解くということだ。

例えば、問題を洗い出すときに、ABC分析がよく用いられる。Aクラスの問題は、件数こそ少ないが影響が大きく、重大な問題である。遠藤氏はこのAクラスの問題ではなく、細かくて数が多いCクラスの問題から着手すべきだというのだ。Cクラスの問題は、誰でも取り組むことができ、少ない経費で成果をすぐに出すことができる。つまり、やさしく問題を解くことができるのである。

「少しずつでも問題を解決していくと、大きな問題もだんだん解きほぐされて解決しやすくなってきます。個々の不具合を改善する個別対応から、改善結果をもとにプロセスの見直しや他部門への展開へと進化させていくのが大事なのです」と遠藤氏は言う。改善をナレッジ化して改革へつなげていくこと、これが、持続する成長を支える「持続する構造改革」の極意なのである。


日本流改革の代表「トヨタ式」で物流改革にも大きな成果


豊田自動織機顧問
アドバンスト・ロジスティックス・
ソリューション
代表取締役会長
竹内 和彦 氏

今年の「経営情報化サミット」で強く感じられたのは、日本企業ならではの改革、日本企業の良さを活かした改革が、改めて見直されているということだ。

これを最も強烈に感じさせたのが、株式会社豊田自動織機顧問竹内和彦氏の講演である。

豊田自動織機は、2002年、新規事業として物流のソリューション事業に乗り出し、2005年度には651億円を売り上げるまでになった。顧客は、コンビニ、食品卸、商社、製薬業、小売業の大手である。長年にわたって物流改革を行い、改善を積み重ねてきたはずのこうした大手企業に対して、豊田自動織機は、日本の製造業の現場改革の代表とも言うべき「トヨタ式」を適用して、大きな成果をあげている。

図3:トヨタ式の改革により物流センターも変わった
トヨタ式の出庫管理や受入管理は、大きなボードにマグネットや紙をベタベタと貼っていく。管理者やベテランだけが問題を把握するのではなく、通りがかった社員が「A社からの納品が遅れている」と気づき、次のアクションをいち早く起こせるのだ。

スーパーマーケットのパートタイマーを「多能工」に変えるトヨタ流

トヨタ式物流改革の根底にあるのは、ジャストインタイムと自働化である。物流改革なのだが、「品質不良を作らない」「アンドン」「かんばん」といった製造現場の用語が飛び交う。

パック惣菜も、カット野菜のラッピングも、売れるスピードで小ロットずつ作り、作りだめをしない。したがって、廃棄ロスも値引きロスも発生せず、来店客は常に新鮮な商品を購入できるのである。

人の動線は、豊田自動織機のコンサルタントが何日間も張り付き、動きを観察して、改善を重ねていく。棚の使い方も、よく使うものは中央通路に近いところへ置き、季節ごとに場所を変えるなど、ムダを徹底的に排除する。異常が起きれば即座に作業が止まるようにしくみ自体も工夫している。

ところで、スーパーマーケットが共通して抱える悩みは、人のシフトである。パートタイマーにはそれぞれ都合があり、来店客が多い曜日のピークの時間帯に、適正な人数を投入できるとは限らない。

トヨタ式の工数管理を適用すると、この問題も解決できる。すべての配員を多能工化することで、惣菜・鮮魚・精肉・青果などの部門を越えた柔軟な人員シフトを可能にするのである。さまざまな作業ができるように計画的に教育を行い、できる作業が増えるごとに、全員が見えるところに設置した「作業能力マップ」を書き換えていく。レジが足りなければ鮮魚の人が応援に行き、揚げ物が追いつかなければ青果の担当者が厨房に入る。

「物流を変えると、お店が変わり、物流センターが変わり、本部機能まで変わっていき、企業改革にまで進んでいきます。会社を変えるには、物流改革から入るのが、楽ですし、最も効果的なのです」と遠藤氏は強調した。


管理職のコミュニケーション努力が社員の熱意を育てていく


話し方研究所 会長
福田 健 氏

日本流の改革とは、現場から積み上げていく改革であり、働く人全員の意欲や熱意に支えられる改革である。これを実現するために、経営者や管理者はどのようなことを心がけるべきであろうか。

この課題に、コミュニケーションの視点から答えたのが、話し方研究所会長の福田健氏である。

福田氏は、コミュニケーションにおいて、3つの勘違いが横行していると指摘した。

第1は、「わたしが話せば相手は聞いている」という思い込みである。「言った」「言わない」という行き違いは、話し手に責任がある。話し手は、場の雰囲気や聞き手の状況に目を向け、相手に届く努力をする必要があるのだ。

ついでながら、「叱る」か「ほめる」かの二者択一も、コミュニケーションの誤解の一つである。「人を叱るときも、できるだけ短く、相手の心の向きを変えていくようなことばを選んで、愛情を込めて話すことが大事です。叱ることは、相手に自分の長所を気づかせるコミュニケーションだと言ってもいいでしょう」と福田氏は言う。したがって、「叱る」と「ほめる」は、一体のものである。

第2に、「話せばわかる」というのも、話し手が抱きがちな思い込みである。実際には、話を違う意味に受け取られたりして、簡単には伝わらない。

だからこそ、何度も話し、互いに努力をしなければならないのだ。部下が報告をしてきたら、「よしわかった」で済ませずに、問題点をみつけて質問やアドバイスして、コミュニケーションをする。その積み重ねが、部下との信頼関係に育っていく。

第3の勘違いは、話すことはむずかしいが、聞くことは誰にでもできるというものだ。

聞くことは受動的な行為と思われがちだが、コミュニケーションは話すことと聞くことで成り立っている。身を乗り出して関心を示す、「なるほど」と共感する、疑問に思ったことを質問する。こうした能動的な聞き方をすることで、部下は自信を持ち、ますます勉強しようという気持ちになる。

確かに、攻めの改革は会社を飛躍させるが、これを成功させるのは、何といっても人である。日本流改革の推進力となるのは、愛情、粘り強さ、反復、気配りなどを含んだ暖かなコミュンケーションの力なのではないだろうか。

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