IBMでは例年,様々な企業のCEOに対してインタビュー形式の調査を行っている。2006年の調査によると,対象企業のCEOの65%が「今後2年間にイノベーション(企業の抜本的な変革)が必要である」と考えている,との結果が出た。また,調査はグローバルに行われているが,日本における結果に絞れば,86%の企業がイノベーションの必要性を感じているという。これに対して「抜本的改革に成功した」と答えた企業は,グローバルで15%,日本においては13%にとどまっている。この調査結果を示し,「イノベーションの足かせは,その企業自身が今まで構築し,企業の成長を支えてきた企業自身のITにあると言われています」と刀根氏は説明する。
企業のITシステムは現在,複雑に組み合わされた多数のアプリケーションで構成されている。イノベーションを行うためには,課題を発見し,それに対するシステムの支援として,システム化部分の定義,設計,開発が必要となる。しかし,現在の複雑になりすぎたシステムは,導入のための労力や開発期間の肥大化を招いており,IT予算の大半が現状の維持のために費やされるという状況を生み出している。刀根氏によれば,「SOAを道具として使うこと」がこれらの課題に対する解決策のひとつであるという。
SOA環境を利用することで,例えばシステムの設計・開発を行わずに機能をサービスとして探し出し,組み合わせ,再利用することで,迅速な変革とIT負担の軽減を図ることができる。サービスを再利用した部分に関しては,開発プロジェクトの設計・コーディング・単体テストのコストがほぼ不要となるといい,ある調査では,このコストはプロジェクト全体の40%に及ぶという。また,開発期間の面で見ると従来の3倍の速度で作業が完了するといった調査結果も出ている。 しかし,新たなシステムが必要となったとき,対応するサービスをその都度探していたら,従来以上に時間がかかってしまう場合もある。「あるものは利用したほうがいいと思います。SAPが利用可能なら,迷わずSAPを使うことがSOAを早めることになります」と刀根氏は力説する。
SOAは,開発の際に「システムを作らずに組み合わせる」という考え方を提示するものだ。標準化されたサービスが大量に蓄積され,ユーザーが自由に組み合わせて利用できることが鍵になるが,「現時点ではまだ創成期の域を完全には脱していないと思います」と刀根氏は指摘する。
一方,SAPはこれまで,コモンプラクティスとして高機能を誇ってきたが,柔軟性と連携性に課題があった。そこでSAP社では,SOAへの対応を進めることで,SAPの完成度を維持したままでの柔軟性と連携性を改善することを目指している。具体的には,ユーザーインターフェースの自由度を向上させているほか,密接に統合されていたデータ中心型の機能を疎結合で結びつけてサービス化し,そのサービスを連携させるプロセス連携機能も疎結合型のアーキテクチャへと移行させている。
SAP社は要求の高いものから順次サービスをエンハンスメントパッケージのかたちで提供していく方針だ。2007年7月末には最初のパッケージが,2007年末には2回目のパッケージが出荷された。IBCSの調査によれば、現状ではまだ十分な数が用意されているわけではない。当面は,アドオン機能や標準インターフェースのBAPIをWebサービス化し,SOAへの対応を図っていくのが早期対応の手段と考えられる。
これらのエンタープライズサービスは,受注登録や受注伝票の参照といった業務プロセス,すなわちシステム操作の前段階となる“粒度(=業務の構成単位)”で提供されている。SOAではアプリケーションの自由な組み換えを目指すことになるが,細かい単位でサービス化していくと非常に煩雑になってしまう。SAPが提供する密結合であるパッケージとしてのメリットである,例えば受注伝票登録から管理会計までがつながるといった処理の連続性などを捨て去るのは現実的ではないだろう。「大きめの粒度で自社のアプリケーションに活用するというのが,SAPのSOA利用における肝になります」と刀根氏は続けた。サービスをある程度の塊で捉え,通常のSOAとSAPが提供するコモンプロセスとを融合することで迅速なSOAの実現が可能になるという。
従来のシステムは,カスタム開発とSAPパッケージ(ERP)がまったく異なる世界であり,両者をつなぐために用いるインターフェースは複雑さを増す原因となっていた。しかし,これからのSOAでは,ユーザーの業務プロセスに適した各種のインターフェースを介することで,両者が持っているサービスの自由な組み合わせが可能になっていく。競争力を得るための機能をカスタム部分とし,効率化が求められるノンコアの部分にはパッケージベースのサービスを利用していけばいい。
それでは,これから増加してくるサービスはどうやって連携させていけばいいのか。レガシーシステムなどWebサービスに対応していない古いバージョンのシステムも多いが,こういった環境に対してはサービスバスで旧来技術のままラッピングしてWebサービスとして出力する“ビジネスバス”の考え方を適用することで機能をつなぎ合わせることができる。また,サービスを組み合わせ,すばやく変化させるためには,サービス連携のコントロールも重要であり,個々のサービスに加えてバスとプロセスコントロール,ユーザーインターフェースのオープン化が必要とされている。
これらのバスやプロセスコントロールといったITの基盤となる部分は,従来と異なる形で作り上げなければならない。SOA実現のためには,現状のIT基盤を分析し,どんな技術でシステム間の連携が行われているかを把握したうえで,構想・検証・計画のプロセスを踏んでいく必要がある。刀根氏は,「一歩一歩調査をして社内で検証をかけ,計画的にSOAを導入していくことが重要です」と強調した。さらに,SOAによりアプリケーションは仮想化され,システムに対する負荷の予測が困難になるため,負荷に応じてダイナミックにリソース配分を行うインフラの仮想化を取り上げ,「IT基盤をおろそかに考えると,それが足を引っ張ることになります」(刀根氏)と注意を促した。
最後に刀根氏は,IBMのSAPを利用したシステムに対する関わり方とSOAシステムの事例を紹介し,「どんなパターンでも,IBMはトータルでご支援させていただきます」と語った。IBCSのバリュー・デリバリー・センターでは,SAPを活用したSOAの導入検討サービスとして,SOAを“知る”ためのプライベートワークショップなどを提供しているという。








