九州大学情報基盤研究開発センターは、学内外の利用者へ流体解析や分子科学などの高度な計算サービスを提供するスーパーコンピュータシステムのプラットフォームを刷新した。従来のベクトル型の専用マシンから、コストパフォーマンスとスケーラビリティに優れたオープンサーバ・ベースのSMPクラスタとPCクラスタで構成されたハイブリッド・システムへ移行し、2007年6月より運用を開始した。それらに採用されたのが、富士通の基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」とPCサーバ「PRIMERGY(プライマジー)」である。
九州大学情報基盤研究開発センターは、全国に7つある全国共同利用情報基盤センターの1つとして、学内の利用者だけではなく全国の大学・研究機関にスーパーコンピュータシステムの計算リソースおよび各種技術サポートを提供している。
センター長を務める村上 和彰氏は、「2004年の国立大学の独立行政法人化を背景に、今回のシステム更新では他の情報基盤センターとの差別化を図りました。最先端のシステムを導入することで、研究者たちのさまざまな要求・用途に応えたいと考えたのです」と語る。
同センターでは、2001年に当時最先端のベクトル・プロセッサを搭載したスーパーコンピュータを導入し、利用者へ優れた演算処理サービスを提供してきた。ところが数年経過すると、新たな分野の科学技術計算需要を満たすことが次第に困難になり、より高速処理が可能なシステムに対する期待が高まってきたのだ。
「例えば、ジェットエンジンのタービンが回転する際の気流の乱れに関するシミュレーションなどでは、大規模かつ複雑な計算が必要となります。ジョブを投入してから計算結果が出るまでに1〜2週間かかることも珍しくありません。特に研究者の論文執筆活動がピークを迎える年度末は、システムの利用が集中し、処理能力が不足しがちでした」と同センターのネットワークコンピューティング部門 准教授である南里 豪志氏は、システム構成を再検討した背景を説明する。
新システムの調達は、総合評価落札方式によって進められた。同センターでは、ベンダー数社の製品の価格性能比や信頼性、拡張性、運用性などを多角的に比較検証。その結果、富士通が提案したソリューションを採用した。
今回採用された新スーパーコンピュータシステムは、デュアルコア インテル Itanium プロセッサーをフル搭載した富士通の基幹IAサーバ「PRIMEQUEST 580」32台(2,048コア)による大規模SMP(Symmetric Multi Processor)クラスタと、同じく富士通のPCサーバ「PRIMERGY RX200 S3」384台(1,536コア)によるPCクラスタとで構成されたハイブリッド・システムである。また、ファイルサーバとしてもう1台の「PRIMEQUEST 580」と、エンタープライズ・ディスクアレイ「ETERNUS(エターナス)8000 モデル2100」が導入されている。さらに、HPC(High Performance Computing)ソフトウェア「Parallelnavi(パラレルナビ)」によって、利用者にSMPクラスタとPCクラスタの異機種混在を意識させない利用環境と、大容量演算結果データのストレージへの高速転送を実現している。
「SMPクラスタの特長は、ノード内の各プロセッサがどのメモリに対してもアクセス時間が一定で、プログラムの並列処理においても安定した性能向上が図れる点です。一方、PCクラスタは増大する計算件数に応えるほか、学内の研究室などで小規模なクラスタを自前で購入・運用していた利用者にも気軽に当センターを活用してほしいとの思いから導入しました」と南里氏は語る。
SMPクラスタとPCクラスタのOSには、いずれも64ビットのRed Hat Enterprise Linuxを採用し、これまで利用してきたアプリケーションやライブラリなどのツール群、研究成果であるデータ資産を移植した。
「実際に富士通のエンジニアが利用者の研究室まで出向いて、移植作業を直接サポートしてくれました。そのおかげで、当センターは従来サービスを円滑に移行・継続することができました」と南里氏は、富士通の技術力とサポートの手厚さを評価する。
また、同センター ネットワークコンピューティング研究部門 准教授の天野 浩文氏は、「ノード数がこれまでにない規模となったため、ファイルシステムにもそれに対応できるだけの強靭さと性能が必要になります。この部分で、より一層の向上を期待しています」と、富士通へ新たな課題を投げかける。
2007年6月から本稼働に入った新システムの総演算処理性能は、PRIMEQUESTによる大規模SMPクラスタとPRIMERGYによるPCクラスタを合わせて31.5TFLOPS(テラフロップス※)に及び、これは従来システムの約50倍に相当する。7つの全国共同利用情報基盤センターの中では群を抜く規模だ。(2007年現在)
※TFLOPS(テラフロップス):1秒間に1兆回の浮動小数点演算ができる演算能力
また、今回の調達における評価項目の中で重視されたものの1つに省電力性がある。インテルのCPUをはじめ低発熱を考慮して装置設計されたサーバ、ストレージは、空調コストの削減も含め消費電力量を大幅に削減。それが、従量制から定額制(年額)へと利用者が負担する料金体系の見直し、および大胆なディスカウントに一役買っている。
同センターでは利用プランを2種類用意している。割り当てられた計算機資源を複数のユーザーで共有して利用するタイプと、占有できるタイプだ。いくつかのサービスは募集直後から予約で一杯になるなど、滑り出しは上々だ。
「2008年中には一般企業に対するサービス開始も検討しています。そのため、テクニカルサポートを担当する専任研究員も増員する予定です。単なる計算機インフラの提供だけではなく、当センターを活用してどんな研究成果が上がったかというアウトカムについてもフォローしていくことが、私たちの新たな課題です」と、村上氏は胸のうちを明かす。
九州大学情報基盤研究開発センター
所在地 福岡県福岡市東区箱崎6-10-1
沿革 2000年3月に九州大学の大型計算機センター(全国共同利用施設)、情報処理教育センター、中央計数施設、総合情報伝達システム運用センター、附属図書館の一部を統合して誕生
URL http://www.cc.kyushu-u.ac.jp/
今回のシステム刷新では、学内外のスーパーコンピュータシステムの利用者の満足度を向上させることが、九州大学情報基盤研究開発センター様から与えられた最大の課題でした。CPUなどコンピュータのアーキテクチャーの革新は、高いパフォーマンスをもたらす一方で、これまで研究者の方々が利用してきたソフトウェア資産をいかに違和感なく新しいプラットフォーム上に移行するかという技術的課題も発生させます。特に、新システムが従来のベクトル型のスーパーコンピュータに対して使い勝手を損なわないように設計する必要がありました。
その具体的な解決策の1つが、基幹IAサーバ「PRIMEQUEST 580」の導入でした。高速分散ファイルシステム「Parallelnavi SRFS for Linux」を適用することにより、SMPクラスタおよびPCクラスタによって並列化された計算サーバで演算処理した大容量データをストレージへ高速転送できます。ストレージ上での高信頼ファイル管理と合わせて、科学技術計算分野に最適な高性能・高信頼ファイルシステムを実現しました。
さらに、ユーザビリティの向上に向けて、当社の「HPCソリューション」を随所に適用いただいています。その1つが「シームレス可視化」です。スーパーコンピュータから出力される大規模な計算結果を、ネットワーク経由で簡単かつ高速に可視化する技術です。手元のPCからの簡単な操作で、ジョブ実行結果や実行中ジョブのメモリ内容を確認でき、利用者の手順を簡略化します。また、「運用管理ポータル」は、Webインターフェースによる異機種混在システムの監視・管理機能などを提供し、運用管理者の負担を軽減します。
膨大な計算量を扱うため、信頼性の追求も徹底しました。お客様に心から納得していただくために、本稼働前には当社沼津工場内にある「ビルド&テストセンター」でシステム展開テストを行い、実際の運用に則した細かいポイントを確認しました。
今後も、利用者や管理者の方々に対するさまざまなサポートを通じて、研究活動に打ち込んでいただける環境づくりに貢献していきたいと思います。
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