「指の静脈は人によって固有の分布パターンがあり,双子といえども異なります。また各指ごとに全て違うのです。つまり,指の静脈認証を利用すると,各指に情報を乗せることができるのです」と,日立ソフトウェアエンジニアリング(以下,日立ソフト)マルチメディア本部の龍口幸市主任技師は語る。
日立ソフトは昨年,世界初のPC端末用指静脈認証システム「静紋(じょうもん)」を発売した。1990年代後半から日立製作所中央研究所と共に研究開発をスタートし,5年以上の歳月を経て,製品化にこぎ着けた。

「静紋」は,第1関節と第2関節の間付近に近赤外線を当てて一定の太さ以上の静脈を浮き上がらせて記録,その画像データからノイズを除去して特殊なパターン画像を生成し,認証するシステムだ。読み取り装置は300グラム程度の軽量なもので,USBケーブルでつないで一般のパソコンでも利用することができる。
「血液中のヘモグロビンが近赤外線を吸収するために影になることを利用して画像を記録します。したがって極度の貧血状態にあると,うまく認証できないこともありますが,通常は高い精度で認証できます」と龍口さんは語る。
静脈パターン認証が他の方式と大きく異なるのは,外からバイオメトリクス(静脈パターン)を見ることができない点にある。つまり,偽造はほぼ不可能だ。また静脈パターンの固有性,すなわち他人の静脈パターンとの差異は大きく,「ほぼ間違いなく本人と特定できる」(龍口さん)。この点,顔の形や骨格による認証方式では双子やよく似た人の識別が難しい。また指紋認証では指紋がすり減った人の認証が難しい。

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静紋(青色の機器)をパソコンにつないだ状態
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「指紋や静脈のほかにも虹彩を利用した認証方式などもあります。しかし虹彩は認証精度自体は高いのですが,高精細なカメラなどを使うと100万円以上コストがかかる上に,機器類が大型化して携帯性が落ちてしまう。静脈は指紋よりはやや高いですが,比較的安価でかつ機器も小型なので持ち運び自由です」と龍口さん。「静紋」は読み取り装置とソフトで標準価格が6万2790円。1セットで100指までのデータを登録できるようになっている。
現在,「静紋」は指紋認証をすでに導入しているような比較的セキュリティ意識の高い企業や団体から大きな注目を集めている。
「指紋で認証できなかった人が指静脈では認証できたと,お客さんの評判はいいですね」と龍口さん。
ATMへの採用を検討している銀行も,「静紋」を試行運用して検証中だという。銀行用には手の指を差し込むのではなく,指を置くタイプの読み取り装置を別途開発中だ。差し込むことに抵抗感を持つ人もいるからだ。
「今後は,電子化を進めている自治体や,カルテのデータ化を進めている病院などでニーズが高まると考えています」と龍口さんは語る。電子自治体は個人情報保護法もあって,高度なセキュリティ体制の確立が緊急の課題となっており,ICカードとバイオメトリクスを組み合わせたセキュリティ・システムが必要となるはずだ。
また,将来的には「電子商取引での決済や,ホテルのチェックインなどにも利用できる」(龍口さん)だろう。指静脈を使った認証方式の応用範囲はかなり広い。