グループウエア市場に本格的な商戦期がやってきた。保守期限切れによる更新や買い換えはもちろん、内部統制への対応を急ぐユーザー企業がセキュリティ機能の強化を求め、新たな需要を生み出しているからだ。一方で、イントラブログという新機軸も出現している。

 「基幹系システムの見直しを優先してきた多数の顧客が、2006年からグループウエアに照準を定めて製品検討や具体的な商談に入っている」。NECの筒井健作第二システムソフトウェア事業部統括マネージャーは、グループウエア商談の復調に手応えを感じている。富士通の五十嵐力ソフトウェア事業本部ミドルウェアソリューション事業部プロジェクト部長も「2006年夏以降、情報漏えい対策などセキュリティ機能を重視するユーザー企業から、新製品への引き合いが強くなってきた」と話す。

 ユーザー企業がグループウエア刷新に取り掛かる直接のきっかけは、「Notes/Domino R6」のサポート期限切れが2007年4月に迫ったこと。日本IBMの澤田千尋ソフトウェア事業ロータス事業部長は「Notes/Dominoのバージョンアップ関連ビジネスは好調。既にR6ユーザーの大半は、後継バージョンに移行した」と強調する。とはいえ、国内のR6ユーザーは現時点で約120万人(エンドユーザーライセンス数)も残っているとみられる。加えて、サポート期間が終了したR4.5/4.6やR5を使い続けるユーザーも480万人程度いる。つまり成熟市場にあって、600万人規模の顧客基盤が動き出そうとしていることになる。「この顧客基盤をどれだけ獲得できるかが、今後のグループウエアビジネスを大きく左右する」(マイクロソフトの三野達也インフォメーションワーカービジネス本部IWインフラストラクチャマーケティンググループシニアプロダクトマネージャ)。

 だが、これだけなら従来のビジネスと変わらない。現在のグループウエア商談の最大の焦点は、内部統制への顧客の関心が急速に高まっていること。2006年6月の日本版SOX法成立も背景にある。それがNotesのサポート切れなどと相まって、グループウエア市場を動かし始めているのだ。日立製作所の銘苅正好ソフトウェア事業部販売推進部Eビジネス販売推進センタ担当部長は「内部統制に眼を向けている顧客との商談では、ワークフロー製品を検討する中で、必ずと言っていいほど『企業情報が集まるグループウエアも見直そう』という話になる。グループウエア商談からワークフロー製品の提案につながるケースも多数出てきた」と話す。

 グループウエアはここ数年、かつてのような勢いが影を潜めてきた。本誌が取材を基に出荷実績(エンドユーザーベース)を推定したところ、2006年3月期も前年比約9%の伸びにとどまった(図1)。だがベンダー各社の上半期の手応えから、2007年3月期は久々に2ケタの伸びに届く可能性もある。顧客が自らグループウエアを刷新しようという動きを、みすみす見逃す手はない。

図1●グループウエア主要7社の販売動向(エンドユーザーライセンス数、推定値)
図1●グループウエア主要7社の販売動向(エンドユーザーライセンス数、推定値)
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「内部統制対応」で攻める

 内部統制への対応では現在、ベンダーが機能追加のためのバージョンアップに取り掛かっている最中。例えばログ管理機能やメールのアーカイブ機能などを追加している。これを一歩進め、「内部統制ソリューションの一環として売り込む」という手法を強く打ち出すベンダーも相次いでいる(図2)。

図2●製品単体のリプレースだけでなく、内部統制などのソリューションとしてのグループウエア商談が増えてきた
図2●製品単体のリプレースだけでなく、内部統制などのソリューションとしてのグループウエア商談が増えてきた
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 例えばNECは5月から、グループウエア「StarOffice」を核にした「内部統制支援ソリューション」を発表した。業務プロセスの管理ツール「Audit Manager」や、文書管理ツール「Document Skipper」などと組み合わせた。

 サイボウズは6月から、ワークフロー製品「サイボウズ ワークフロー for ガルーン2」を発売している。これまでも中小企業向けラインアップでワークフロー製品を用意していたが、中堅以上の企業を対象にした新製品を、ガルーン2とのセットで提案していく。

 日本IBMも販売パートナーやSIerと協業しながら、内部統制ソリューションを拡充しているところ。「アプリケーションベンダーが、既にNotes/Dominoに対応した内部統制ソリューションを多数用意している状態」(日本IBMの澤田事業部長)と言う。

中小市場にブログの波

 グループウエアベンダーは市場拡大に向けて、中小企業市場の掘り起こしも急いでいる。そこで現在、ユーザー企業への提案のキーワードとなっているのが「イントラブログ」と「ASP」だ。

 イントラブログは、ブログ構築ソフトを使って、企業が社員同士の情報共有に用意するブログのこと。管理者がブログの閲覧をユーザーやグループの単位で制限するなど、管理機能を高めている。個人がインターネット上で自由に立ち上げるブログとは異なる。

 このイントラブログはグループウエアの掲示板の代わりとして、一部のユーザー企業が取り入れ始めた段階にある。多くのグループウエアベンダーは表向き静観の構えだが、本音では「将来は、グループウエアにブログを取り込んでいく」(あるグループウエアベンダー担当者)と、イントラブログ市場を虎視たんたんと狙う。

表●グループウエア大手7社の出荷実績/出荷見直し(本誌推定)と、製品や販売面での強化策
表●グループウエア大手7社の出荷実績/出荷見直し(本誌推定)と、製品や販売面での強化策
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 早くも手を打つベンダーも現れた。サイボウズは2006年3月に、ブログ構築ソフトを販売するブログエンジンを子会社化し、イントラブログ市場に乗り出した。ネオジャパンも9月から、イントラブログ製品「desknet'sBlog」の販売を開始している。ネオジャパンの大神田守取締役プロダクト事業本部長は「ブログは社員同士の“横のつながり”で情報共有を図れる。グループウエアとは互いに補完し合う商材だ」と狙いを語る。

 大規模オフィス向けの「Groupmax」を手掛ける日立製作所も5月から、ブログソフト「BOXERBLOG iB」とRSSリーダー「SONNAR」を展開している。富士通も近く、関連会社を通じて投入する見通しである。

 一方のASPは従来も、サイボウズやネオジャパンなどが中小企業市場を開拓するための商材として用意してきたが、大規模オフィスを相手にしてきたベンダーも参入している。例えばNECは7月から、50ライセンスで100万円からのASPサービス「UNIVERGE OneMillionソリューション/グループウエア」を投入。メールやスケジュール管理、掲示板、施設予約などStarOfficeの基本機能を、データセンター経由で提供する。

 NECにとってASPサービスの提供は、グループウエアの販路を拡大するためでもある。StarOfficeはもともとIT系のパートナー企業経由でパッケージ販売していた。これに対して今回のASPサービスは、主にPBXやIP電話を扱う通信系のパートナー企業を介して拡販していく。