金融庁が11月8日に一般公開した「実施基準」草案(以下,実施基準案)は,3つの文書,すなわち(1)「内部統制の基本的枠組み」(資料1-1),(2)「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」(資料1-2),および,(3)「財務報告に係る内部統制の監査」(資料1-3)で構成する。

 11月6日の「企業会計審議会 第14回内部統制部会」で議論された(1)と(2)のうち,前編では(1)について詳しく紹介した(ついに公開されたJ-SOX「実施基準案」の中身とは(前編))。今回は(2)「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」(以下,文書2)を取り上げる。
(吉田 琢也=ITpro)

 実施基準案の2つめの文書である「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」(以下、文書2)は、

財務報告に係る内部統制の評価の意義
財務報告に係る内部統制の評価とその範囲
財務報告に係る内部統制の評価の方法

という3つのパートから成る。ここでいう「評価」とは,財務報告の信頼性を確保するという観点で,内部統制が有効に機能しているかどうかを経営者が検証・把握することを意味する。以下では,各パートの概要とエッセンスを順に見ていく。

■財務報告に係る内部統制の評価の意義

 実施基準案によれば、経営者は内部統制を整備し運用する役割と責任を持つ。具体的には、「財務報告に係る内部統制」について、その有効性を(公正・妥当な評価基準に基づいて)自ら評価し、その結果を外部に報告しなければならない。文書2ではまず,経営者が負うこの責任の意味を明確にするため、重要な言葉の意味を次のように定義している。

財務報告:財務諸表及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に係る外部報告
財務報告に係る内部統制:財務報告の信頼性を確保するための内部統制
財務報告に係る内部統制が有効である:当該内部統制が適切な内部統制の枠組みに準拠して整備及び運用されており、当該内部統制に重要な欠陥がないこと
重要な欠陥:財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備

 そのうえで、「財務報告の範囲」および「重要性の判断指針」について、具体例を挙げながら説明している。

<財務報告の範囲>
 文書2では「財務報告の範囲」として、まず「財務諸表」の定義の法的根拠を示したあとで、上記「財務報告」の説明に含まれる「財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項」の意味を具体化している。ここでいう開示事項は2つある。

 1つは「財務諸表に記載された金額、数値、注記を要約、抜粋、分解又は利用して記載すべき開示事項」である。文書2では、有価証券報告書の記載事項中、「企業の概況」の「主要な経営指標等の推移」の項目、「事業の状況」の「業績等の概要」、「生産、受注及び販売の状況」、「研究開発活動」及び「財政状態及び経営成績の分析」の項目・・・と具体例を列挙している。

 ここで重要なポイントは、経営者が評価するのは、これらの項目が正しいかどうかではない、ということだ。文書2では次のように注意を促している。

 この点に係る経営者の評価は、財務諸表に記載された内容が適切に要約、抜粋、分解又は利用される体制が整備及び運用されているかについてのものであることに留意する。

 もう1つの開示事項は、「関係会社の判定、連結の範囲の決定、持分法の適用の要否、関連当事者の判定その他財務諸表の作成における判断に密接に関わる事項」である。これについても、文書2では具体例を挙げると同時に、次のように注意を促している。

 この点に係る経営者の評価は、これらの事項が財務諸表作成における重要な判断に及ぼす影響の大きさを勘案して行われるものであり、必ずしも上記開示項目における記載内容の全てを対象とするものではないことに留意する。

<重要性の判断指針>
 文書2では「重要性の判断指針」として、「内部統制の不備」と「重要な欠陥」の2つを説明している。

 「内部統制の不備」とは、会計基準や法令に準拠して取引を開始、記録、処理、報告することを阻害し、結果として「重要欠陥」となる可能性があるもの、をいう。「整備上の不備(内部統制が存在しない、内部統制の目的を果たせない、など)」と「運用上の不備(整備段階での意図通りに内部統制が運用されない、内部統制の実施者が必要な権限・能力を持っていない、など)」の2種類がある。

 上記の「重要な欠陥」とは、内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記 載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性があるもの、をいう。経営者は、内部統制の不備が重要な欠陥に該当するかどうかを判断する際には、「金額的な重要性」と「質的な重要性」の両面から検討しなければならない。

 金額的な重要性は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断する。文書2では、この比率を「概ね5%程度とすることが考えられる」と例示しているが、最終的には財務諸表監査における金額的重要性との関連に留意する必要がある、としている。

 質的な重要性は、投資判断に与える影響の重要性や、財務諸表の作成に与える影響の重要性で判断する。前者の例としては「上場廃止基準や財務制限条項に係る記載事項など」を、前者の例としては「関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項など」を挙げている。