今回は、金融商品取引法で見直されたM&Aに関する「公開買付制度」や「大量保有報告書制度」について解説する。これらの制度の改正は、従来あいまいだったルールを明確化したり、投資情報の報告義務を強化することで、投資家保護のレベルを高めることにある。

 バブル崩壊後、日本では大企業の不採算部門の切り離しや、事業戦略の選択と集中が盛んに行われ、企業の合併・買収(M&A)は事業会社にとって重要な選択肢の一つとなった。最近では、会社同士の合併・買収だけでなく、外資系金融機関や投資ファンドによる大規模な企業買収も珍しくなくなってきている。

 こうした社会経済の急速な変化に対し、従来の証券取引法は必ずしも明確なルールを網羅的に定めていたとは言えなかった。そのため、東証の立会外取引を利用したライブドアによるニッポン放送株式の大量取得などを契機に、ルールを明確化し整備するべきであると指摘されてきた。

 金融商品取引法では、以上のような動向を踏まえて、「公開買付制度」と「大量保有報告書制度」に関して見直しがなされた。まずは公開買付制度の見直しについて見ていこう。

あいまいだった株式公開買付のルールを見直す

 そもそも、公開買付制度(Take Over Bidを略してTOBと呼ばれる)とはどのような制度なのだろうか。

 公開買付制度は、会社支配権に影響を与えるような取引などが行われる場合に、あらかじめ投資者に情報開示を行うとともに、株主などに対して平等に株券などの売却の機会を与える制度である。日本では、英米での制度化や資本の自由の流れを受けて、1971年(昭和46年)に証券取引法上の制度として導入された。

 公開買付制度は、導入後も各時代の社会経済情勢に合わせて何度か改正がなされている。バブル期の1990年(平成2年)には、株高・金余り現象を背景とする企業合併・買収の活性化や、市場における大量買い占めの増加などにより、後述する大量保有報告制度の導入と合わせて全面改正された。また近年では、事業再編行為の迅速化や、手続きの簡素化を目的として、公開買付規制の適用除外範囲を拡大している。

 金融商品取引法における公開買付制度の見直しは、こうした過去の改正と同様、社会経済情勢の変化に合わせたものだ。立法担当者の説明によると、今回の見直しのポイントは、以下のようになる。

(1) 脱法的な態様の取引に対応するため、市場内外における買付等の取引を組み合わせた急速な買付の後、所有割合が3分の1を越えるような場合について、公開買付規制の対象となることを明確化する(金融商品取引法27条の2第1項4号

(2) 株主・投資家に十分な情報提供がなされ、公開買付に応募することの是非等について熟慮の上で判断してもらう観点から、対象会社による表明意見の義務化、対象会社が公開買付者に対して質問する機会の付与、対象会社による公開買付期間の延長請求等の措置を講じる(同法27条の10

(3) 公開買付者が著しく不合理な立場に立たされることを回避する観点から、いわゆる買収防衛策が発動された場合等について、公開買付の撤回(同法27条の11第1項)や買付条件等の変更が認められる事由について柔軟化した(同法27条の6第1項

(4) 株主・投資者間の公平性を確保する観点等から、買付後の所有割合が一定割合以上となるような公開買付については、按分比例方式による部分的公開買付を認めず、全部買付を義務づける(同法27条の13第4項

(5)買付者が競合するような局面において、投資者の投資判断が著しく複雑化することを回避する観点から、ある者の公開買付期間中に、他の大株主が急速な買い進めを行う場合には公開買付によることを義務づける(同法27条の2第1項5号

 これらの改正点に共通するのは、「市場の適正なルールを定める」という大きな目的に沿ったもの、ということである。いずれも、前述したライブドアによる立会外取引や夢真ホールディングスによる日本技術開発のTOBなど、昨年以降に発生した実際の案件において、TOBに該当するのかどうかの規定や、TOBを行う際のルールが不明確だったために、裁判上の争点となったものだ。

 従来の証券取引法にもTOB制度の規定は存在したが、これまでは必ずしも十分に利用されていなかった。昨年以降にようやく利用されるようになったことで、その必要性が指摘され、修正されたのである。

 本連載の第1回「金融商品取引法を性格付ける3つのキーワードと4つの柱」では、証券取引法から金融商品取引法への改正により、「市場法」としての機能(役割)がより明確になった、ということを指摘した。社会要請に応じる形で迅速にTOB制度が改正されたことは、まさに金融商品取引法の「市場法」としての特徴をよく表している。