丸紅がグループを挙げて取り組んだ内部統制の整備プロジェクト「MARICO」は,2004年度(2005年3月期)の「フェーズ1」と,2005年度(2006年3月期)の「フェーズ2」に分けられる。今回は,フェーズ1で取り組んだ業務手続きの可視化(見える化)と文書化について,具体的な考え方と作業の進め方を解説する。
丸紅 リスクマネジメント部長 辻村 正孝
前回説明したように,丸紅グループが取り組んだ内部統制整備プロジェクト「MARICO」の第1フェーズ(2004年度)では,業務手続きを可視化(見える化)するための「文書化」を実施しました。
文書化の具体的な取り組みを紹介する前に,そもそも,なぜ文書化が必要なのかについて確認しておきたいと思います(図1)。
図1 なぜ「文書化」が必要なのか? |
内部統制に関しては多くの解説本が出ていますが,なぜ文書化が必要なのかについては,意外と書かれていません。業務手続きの文書化は,内部統制整備の第一歩と言われているにもかかわらず,です。
では,なぜ文書化が必要なのでしょうか。文書化とは目に見える形にする,すなわち可視化する,ということです。可視化したものでなければ,これでいいかどうかの評価ができません。各現場で業務手続を点検するにしても,内部監査を実施するにしても,業務手続きが可視化されていないと「これで本当に大丈夫」と言い切れません。これこそが文書化が必要な理由なのです。
これまで慣例的に行ってきた手続きを文書化して可視化すると,様々な問題点が浮かび上がってきます。問題点があれば,業務手続きを改善し,改善した業務手続きを再び文書化します。さらに,有効性評価の結果も,文書に残していく必要があります。これらによって,内部統制が整備されたことになります。
最初の段階での文書化は,大変な苦労を伴うものです。当社もそうでした。しかし,結果的には「文書を作ってよかった」という現場の声も多数聞かれます。ある子会社では,新入社員の勉強のために,業務手続きの文書を読ませているようです。社内の仕組みに「MARICO」システムを組み込んでいる,というケースもあります。このように「MARICO」が様々な形で現場で利用されているという話を聞き,このプロジェクトを進めてきて良かったんだなと実感しています。
文書化に着手する前に全体計画の立案を
では,丸紅グループによる文書化への取り組みをご紹介しましょう。
まず,文書化の作業に着手する前に行うべき重要なことがあります。それはプロジェクト全体の計画立案です(図2)。
図2 プロジェクトの全体計画 |
財務報告にかかわる内部統制ですから,まず,有価証券報告書のBS(貸借対照表)やPL(損益計算書)で開示している勘定科目のなかで,重要なものを選び出します。次に,それらの重要な勘定科目の数値が,どのような業務手続き(業務プロセス)を経て算出されるのか,ということを分析します。
次に,業務手続きをいくつかの種類に分類します。当社では,大きく21のメイン・プロセスに分類しました。そのうえで,「この業務手続きがきちんと行われていれば,この勘定科目は正しい」という具合に,勘定科目と業務プロセスの相関図を作成しました。
総合商社である当社は,様々な業態の事業を抱えています。繊維から不動産まで,すべての業種をカバーしており,グループ全体では製紙メーカーや,自動車のディーラー,発電所まであります。これらを21種類の業務プロセスに分けることは,なかなか難しい作業でした。ただ,あまり細分化し過ぎても管理しにくくなると判断し,業務手続きを大きく21のプロセスに分類して,それぞれのプロセスの下にサブプロセスを組み込んでいきました。
これらの作業は,本社のすべての営業部門,管理部門,それに連結子会社,海外現地法人など,約120の組織を単位として実施しました。
3つのレベルに分けて文書化を推進
文書化は体系立てて行う必要があります。財務報告にかかわる内部統制のための文書化は,大きく3つのレベルに分けることができます。(1)会社レベルの内部統制,(2)業務プロセス・レベルの内部統制,そして(3)IT全般統制です(図3)。
図3 3つのレベルから成る文書化の体系 |
「MARICO」プロジェクトでは,業務手続きに書かれたことが実際に行われているかどうかを検証するための「ウォークスルー文書」まで含めて各現場で作成し,文書の見直しなどのメンテナンスを毎年実施しています。現場でウォークスルーすることで,自己点検的にプロセスの改善を促せるという大きなメリットがあります。