企業が環境汚染や情報セキュリティーなどにかかわるリスク情報を地域住民や顧客などに開示し、リスクに対する理解や納得を促す活動のこと。

 クボタは2005年6月、アスベスト(石綿)による健康被害について、兵庫県尼崎市にある事業所周辺の患者に見舞金を支払うことを発表しました。事実関係を自ら明らかにしたことで、アスベスト問題に関する国民的議論が巻き起こりました。その後もクボタは、他工場でのアスベスト使用実績を公表したり、尼崎市に住民健康診断への協力を申し出ています。

 事業を営むうえで発生する様々なリスクについて、周辺住民や行政機関、社員、顧客といった関係者と適切な意思疎通を図っていくことが重要です。こうした活動のことを「リスクコミュニケーション」といいます。

不信の連鎖を防ぐ

 リスクコミュニケーションは、環境分野でよく使われてきた用語です。1999年に公布された化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)は、企業が化学物質の排出量などを把握し、それを行政が公表することを制度化しています。これを機に、環境リスクを隠すのではなく、周辺住民などに分かりやすい形で積極的に情報開示しようという機運が高まりました。

 リスクコミュニケーション活動は、排出している化学物質の種類・量など、自社が抱えるリスクの情報を把握するところから始まります。そのうえで、住民向けの説明会などの場で情報提供や意見交換を行います。ウェブサイトで情報提供したり、苦情・相談の窓口を設置することも重要です。

 日ごろからリスクコミュニケーション活動を実施しておけば、関係者と信頼関係を構築できます。逆にコミュニケーションを軽視すれば、万が一事故が起きた場合に、「何か隠しているのではないか」「自分にも危害が及ぶのでは」といった不信感を増幅することになってしまいます。

システムの情報開示

 排出物だけではなく、情報システムでもリスクコミュニケーションが問題になることがあります。

 2002年に住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)が稼働した際には、個人情報保護対策などセキュリティーに関する懸念が広がりました。その後総務省は、住基ネット構成機器に対する攻撃実験の結果を公表するなどのコミュニケーション活動を実施しています。

 ネット専業証券会社では、システム障害が発生すると、顧客は思い通りの価格で株式を売買できず、損失を被るリスクがあります。カブドットコム証券は、注文処理が5分を超えて遅延した場合、損失額を補償する独自の制度を導入。遅延の発生件数などもウェブサイトで公表し、顧客の信頼性向上に努めています。

(清嶋 直樹=日経情報ストラテジー)

出典:日経情報ストラテジー 2006年1月号29ページより 日経情報ストラテジー