いよいよ本連載も最終回を迎えた。今回は「合同会社」を中心に,より自由な組織運営を可能にすることを目的とした、「株式会社」以外の会社制度について解説することにする。

 日本ではバブル崩壊後の構造的な経済不況が続いた1990年代以降、「起業を促進して経済を活性化させる必要性」が指摘されてきた。それに応えるための施策として、米国をはじめ各国で導入が進んでいる、自由な組織運営を可能とする組合制度であるLLP(Limited Liability Partnership)や、これと同じ目的を持つ会社制度であるLLC(Limited Liability Company)を、日本でも導入すべきという要請が経済界を中心に強くなされてきた。

 LLPやLLCといった法制度のもとでは、取締役や監査役の設置義務がなく、組織運営の自由度が高い。また、会社の設立手続きが容易であるなど、株式会社に比べて規制が緩い。そのため海外では起業の際に広く利用されており、米国で起業が最も盛んな地域の1つであるシリコンバレーにおいてもLLPやLLCの導入が活発であると言われる。

 このような社会的な要請を受け、起業促進のための法制度が、経済産業省や法務省を中心に検討されてきた。その成果として、まず会社法の施行より一足先に「有限責任事業組合契約に関する法律」(2005年(平成17年)5月6日法律第40号、いわゆる日本版LLP)が2005年8月1日に施行された。

 この日本版LLPは、(1)構成員(出資者)の有限責任、(1)内部自治の徹底、(1)構成員課税(パス・スルー課税)という特徴を持つ組合制度で、株式会社よりも自由な組織運営を可能とする。従来の民法上の組合においては、出資者である組合員が組合の債務について無限責任を負うことがネックとされてきたが、この点をクリアする組合が登場したのである。

 日本版LLPという法形態(ビークル)は今後、有限責任を維持しながら自由な組織運営が 可能であるという特徴を生かし、ベンチャーキャピタルのファンド組成といった資金調達や、 産学連携、会計士や税理士といった専門人材の連携などに利用されることが見込まれている。 実際、立法担当者によれば、施行後ほぼ1年で有限責任事業組合の数は順調に増えており、2006年3月末時点で700を超えているという。

 会社法は、このような起業促進の流れを受けて、株式会社以外の法形態として従来から存在する「合名会社」と「合資会社」に加え、「合同会社」制度(いわゆる日本版LLC)を導入している。

 会社の運営において最も制約が課せられるのは組織運営、つまり機関の設計や業務執行の方法である。株式会社の場合には、「所有と経営の分離」が法律によって強制され、株主総会と取締役は必ず設置しなければならないとされ、各機関の役割について詳細な規定が設けられている。

 合同会社では、このような株式会社における制約のうち、コーポレートガバナンスの観点から最低限必要なものを残しつつ、できる限り自由な組織運営が可能になるように配慮している。以下では、合同会社に関する規定のうち、特に重要なものを解説していこう。

全員一致による組合的自治による自由な組織設計

 合同会社においては、重要な事項の決定は総社員の一致によることが原則である。例えば、定款に別段の定めがある場合を除き、定款変更は合同会社の社員(株式会社の株主にあたる)全員の同意が必要である。

 また、合同会社では、原則として社員全員が業務を執行する権限を有する(会社法590条1項)。これは、株式会社でいえば出資者である株主が取締役としての業務執行権限を持つことを意味する。このように合同会社では、出資者である社員の有限責任が確保される一方で、株式会社のように所有と経営を分離することなく、出資者が業務執行にも全員一致で関わるという形態(組合的規律)が採用されている。

 もっとも、こうした全員一致原則や社員の業務執行権限はあくまで原則(これを「デフォルト・ルール」と呼ぶ)である。実際には、当事者が定款により全員一致原則と異なる内容を定めたり、社員を代表して業務を執行する業務執行社員を定めたりする(会社法591条)ことで、より適切と考える組織形態を設計することも可能である。このように会社法では、出資者が全員一致で業務執行を行うという組合的規律を合同会社の原則としつつも、定款自治による自由な企業運営を広く認めている。

最低限のルールを定める ― 債権者保護の制度は株式会社と同様

 このように会社法では、組織運営に関して広範な裁量を認める一方で、無秩序な経営によってステークホルダーに損害を与えないよう最低限のルールを定めている。特に債権者については、会社の経営に関して強い利害関係があることから、合同会社についても株式会社とほぼ同様の規制を課している。

 まず、社員が出資をする際には、金銭その他の財産のみの出資に限られ、労務による出資は認めていない(会社法576条1項6号)。財産評価ができない知恵やサービス、労務による出資では、出資の対象が明らかでないためである。また合同会社の出資については、全額払い込まなくてはならない、とされている(払い込みとは、出資引受分相当額の支払いをすること)。つまり、株式会社では結果的に認められている一部払い込みによる出資を、会社法では認めていないのである(会社法578条)。

 これらの規定は、株式会社制度と同様に、構成員全員の有限責任が認められる企業組織として、会社債権者保護の制度が必要との観点から要求しているものである。このほか、剰余金の処分の制限など、会社債権者保護の制度は、基本的に株式会社と同様の内容となっている。