かつて取締役会の追認機関にすぎなかった「株主総会」は、近年になって株主側に立った運営が強く求められるなど、その位置づけが大きく変化している。今回は、こうした状況に対応して、会社法が株主総会についてどのように規定しているのかを詳しく論じることとする。

 従来、日本企業の株主総会では、取締役会が決議した議案について短時間で承認決議がされるケースがほとんどであった(いわゆる「しゃんしゃん総会」)。小規模な株式会社においては経営者が大多数の株式を保有する閉鎖会社が多かったことや、大企業においては株式の相互保有による安定株主が株主割合の多数を占めていたことが大きな要因である。

 株主総会を滞りなく短時間で終了させようとする傾向は、バブル期における総会屋の台頭などにより拍車がかかった。ともすると「いかに滞りなく早く終わらせるか」が株主総会の最も重要な目的となってしまったのである。

 ところが、バブル崩壊による株価の急落や大手金融機関の体力低下などにより、株式相互持ち合いの構図は大きく崩れた。2000年以降になると、外国人投資家による日本株の保有割合の増加や、インターネットの発達による個人投資家の台頭、年金基金などの機関投資家による議決権行使などにより、株式市場を取り巻く状況は大きく変化した。

 このような状況とともに、株主総会の位置づけは近年大きく変化している。取締役会の追認機関にすぎなかった従来の姿はみられず、個々の株主から賛成意見をもらうために事前に準備を重ね、株主の出席しやすい場所や時間で開催するなど、株主側に立った総会運営が求められている。また、株主総会当日は質疑応答になるべく時間を費やし、説明義務を負う取締役には株主を説得するに足る丁寧な回答が求められている。

 こうした時代の要請に応えて、株主総会を個人投資家や機関投資家に対するIR(Investor Relations)の場と位置づけ、積極的な姿勢で取り組む企業は、市場において高い評価を受けることができる。逆に、株主に対する事前の説明が不足したり、紋切り型の応答に終始したりして、株主に対する経営陣の対応が誠実さを欠いていると判断された場合には、たとえ内容に合理性のある議案であっても当日否決されることも珍しくない。今年6月の株式総会においても、敵対的買収への防衛策や取締役会による配当決議の導入議案について、当日否決されたり、否決の可能性有りと判断したりして、撤回した企業が少なくなかったようだ。

 このように、今日において株主総会は、企業統治(コーポレート・ガバナンス)を実効化するために株主が経営陣を監視する場として極めて重要な役割を果たしている。そのため会社法では、こうした株主総会の重要性に鑑み、株主総会において株主に開示する計算書類や事業報告(旧営業報告書)の記載内容を充実させている。

 上記のようなディスクロージャー対応に加え、会社法ではより機動的かつ充実した株主総会を実現するために、旧商法に含まれていた根拠や実効性が不明確な規制・規定を撤廃あるいは緩和している。これまで法文上は必ずしも明らかでなく、学説が対立していたり、実務の運用に委ねられていた部分についても、法律で規定することで明確化し、立法的に解決を図っている。

 このような「規制緩和」と「明確化」が、会社法による株主総会に関する改正点のポイントである。以下では、この2つのポイントの具体的な内容を説明しよう。

総会招集の規制緩和と、議決権行使のIT化

 会社法では、旧商法で規定されていた株主総会に関する制限について、(1)~(3)のような招集手続きに関する規制緩和を施した。また、(4)に示したように、招集手続きや議決権行使のIT化を進めている。個別に説明していこう。

(1)規制緩和その1:招集地に関する規制の撤廃
 従来の商法では、株主総会は、定款で特別な定めがある場合を除き、本店(本社とほぼ同様の意義)の所在地またはその隣接地に招集することが必要とされていた(商法233条)。しかし、実際には株主の利便性などを考慮して、本店所在地以外の借会場を開催場所として利用しているケースが多く、実態とかけ離れた規定であるとの批判があった。また、株主が外国や地方にも多く存在する上場企業においては、いくつかの場所を設置する必要性も指摘されていた。

 そこで会社法では、招集地の規制を撤廃し、特に定款で定めなくとも本店の所在地・隣接地以外で開催することが可能となった。そのため今後は、「会議」の形式と認められれば、つまり同一の会場と見なせるほどの一体性や同時進行性が認められれば、2つの会場をビデオ中継などで結んで開催することもできるし、一部を外国の会場とすることも可能になる。もっとも、株主に著しく不便な場所での開催や、通信状況の悪化などにより、会議と認められないような状態となった場合には、総会取消事由になる(訴訟により取り消されることがある)ことに注意が必要である。

(2)規制緩和その2:招集時期に関する規制の緩和
 公開会社については、株主総会の招集を会日(株主総会の開催日)の2週間前までに通知しなければならない、とする規定は旧商法から変更はない。しかし会社法では、非公開会社については原則として、株主総会の招集を会日の1週間前に通知すれば足りる(会社法299条1項)とした。これは、非公開会社の場合には株主の数も少なく、特に2週間の余裕を設ける必要性が乏しいためである。

図1 会社法で規定された、取締役会を設置しない会社の株主総会招集手続き
▲図1 会社法で規定された、取締役会を設置しない会社の株主総会招集手続き
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(3)規制緩和その3:取締役会を設置しない会社における招集手続きの簡素化
 株式会社と有限会社との統合に伴い、会社法では取締役会を設置しない会社が認められたが、このような会社は小規模で閉鎖的である場合が多いことから、さまざまな規制緩和措置をとった。具体的には、株主総会の招集通知の期限について、会日の1週間前を過ぎてから通知することを可能にした、招集通知を口頭や電話で行うことを可能にした、招集通知に会議の目的事項などを記載しなくてもよいことにした、といったものである(図1)。

 このように、会社法においては、有限会社と同程度の小規模な会社については、大幅に手続きの簡略化を認めることで、企業の実体に応じた総会運営を可能としているのである。

図2 会社法で規定された、株主総会に関する手続きのIT化
▲図2 会社法で規定された、株主総会に関する手続きのIT化
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(4)招集手続きや議決権行使におけるIT化の推進
 一方、会社法においては、ここ数年、旧商法で改正作業が行われてきた株主総会に関する手続きのIT化をさらに進めている。具体的には、株主総会における事務的コストの軽減のために、招集通知の電子化(メールなどの電子的方法による通知)、参考書類(取締役の選任に関する議案における候補者の氏名、生年月日、略歴や、取締役の報酬に関する議案における算定基準など、議案や議案に関する情報が記載された書類)や議決権行使書面の電子化、参考書類や事業報告のWebによる公開、などである(図2)。

 以上の通り、会社法は旧商法において導入された株主総会のIT化の流れを推進している。こうした流れを受け、今後は各企業によるIT化の検討・導入作業が進むものと予想される。このほか非公開会社については、株主総会招集請求権など少数株主の権利について,「株式を6カ月間保有していること」という要件が不要になり、招集請求の時点で株式を有してさえいれば権利行使が可能になる(会社法297条2項)など、規制の緩和を進めている。