今年5月に施行された会社法は、監査役を設置する大会社に初めて「内部統制システムの構築」が義務づけられた点で大きな注目を集めている。今後は、経営者や情報システム部門の責任者・担当者をはじめ、社員1人ひとりが内部統制システムの“運用者”の立場で内部統制に関与していくことが求められる。そもそも内部統制システムの構築義務を定めた「会社法」とはどのような法律なのかを、これから8回にわたって平易に解説していく。

 読者もご承知の通り、会社法制の“現代化”を目指した「会社法」が、2006年(平成18年)5月1日に施行された。施行後まだ間もないものの、新聞報道によれば、上場企業の97%が機動性を高めるために、株主総会で定款変更(利益配分回数の増加、電子メールを利用した取締役会決議の導入、取締役の任期短縮など)を提案するなど、会社法は既に企業社会のインフラとして定着し始めている。

 この「会社法」は、従前の商法において片仮名文語体で表記されていたものを平仮名口語体化するなどして分かりやすくするとともに、会社の設立、株式、機関、資金調達、組織再編など、会社法制の全分野にわたり大幅な改正を行い、1つの法典として再編成したものである。

 会社法による大改正のうち、社会の注目度が最も高く、また専門家の間でも活発な議論が行われているのが、監査役を設置する大会社に対して、初めて「内部統制システムの構築」が義務づけられた点である(筆者が本サイトで8回にわたって、会社法と金融商品取引法を中心に解説した連載「法務から理解する内部統制」をご覧いただきたい)。

 今後、企業は内部統制システムを構築し、継続的に更新・運用していくことになる。また、その構成員である企業の社員1人ひとりは、内部統制システムの“運用者”の立場で、積極的に内部統制に関与していくことが求められる。

 このような時代の流れに適切に対応するためには、そもそも内部統制システムの構築義務を定めた「会社法」とはどのような法律なのか、ということについて理解しておくことが望ましい。内部統制という“木”だけでなく、「会社法」という“森”を概観することが、内部統制のより正確な理解につながるからである。このような問題意識を踏まえて、本連載では読者の方々に、会社法全般についての基礎的な知識を身につけていただきたいと考えている。

 会社法についての一般的な概説は、法文の順序に沿った形で、(1)設立、(2)株式、(3)新株予約権、(4)機関、(5)計算書類・剰余金配当、(6)社債、(7)組織再編、(8)持分会社、(9)会社訴訟といった流れで解説するのが通常である。しかし、「内部統制に関する総合情報サイト」という本サイトの性格を考慮し、本連載では特に情報システム部門の方々や経営幹部の方々に、会社法の概要をご理解いただくことを目的としている。そのため、内部統制との関係性が薄い株式・新株予約権や社債といった内容は思い切って省略した。

 その反面、内部統制やコーポレートガバナンスと深く関わる株主総会、取締役会、監査役などの機関については詳しくは、以下のテーマと順序で、8回にわたって連載する予定である。

(1) 総論
(2) 株主総会
(3) 取締役と取締役会
(4) 取締役の責任論
(5) 監査役と会計監査人
(6) 計算・利益配当・事業報告
(7) 合同会社と合名会社
(8) 組織再編と設立

 本連載の各回では、主に条文をベースとした制度の概説をすることになるが、できる限り内部統制システムとの関連性という視点から分析を試みるつもりである。また、株式や新株予約権については、改めて別の連載で、金融商品取引法(いわゆる日本版SOX法)を概説する際に、「有価証券」の定義の網羅化の説明とともに触れる予定である。

 読者の中には、そもそも法律の条文を読む機会すらまれである方が多くいらっしゃると思うので、できる限りポイントを絞り、平易な解説を試みたい。今回は、会社法の基本的な意味や位置づけを確認していただくための総論である。