前回では、会社法に基づく実務上の内部統制の対応と、金融商品取引法の大まかな概要について説明した。本稿では、米国におけるサーベインズ・オクスリー法(SOX法)制定の経緯に簡単に触れたうえで、「金融商品取引法」における内部統制の規定の具体的内容を解説する。最後に、内部統制に関する会社法と金融商品取引法の関係について論ずることとする。

 広く知られているとおり、いわゆる日本版SOX法として議論されてきた、内部統制に関する財務報告書や公認会計士などによる監査証明の義務化は、米国企業改革法 —— サーベインズ・オクスリー法(以下、米国SOX法)に端を発している。

 米国において同法が法制化された背景には、1990年代後半から2000年前半にかけて、エンロン事件やワールドコム事件といった、社会的信用が高く、高収益を上げているとされてきた巨大企業の粉飾決算が次々と明らかになったことがある。加えてエンロン事件では、会計監査人が不正を発見できないのみならず、粉飾決算の隠蔽工作に加担していたことが明らかになったことから、こうした不祥事は単なる一企業の不正行為にとどまらない、という認識が広まった。

 すなわち、企業の不正を防止するための「仕組み」を社内に構築させ、これを外部に報告することを義務付ける「制度」が存在しない、という「制度上の不備」が原因であるという認識のもとで、同法が成立されるに至ったのである。要するに、投資家などに対して信頼できる財務報告を提供するためには、虚偽の財務報告の原因となる不正や過誤を発見・是正できる「内部統制システム」を構築することが不可欠との認識がされ、このような仕組みを構築させる制度を法制化したのである。

 サーベインズ・オクスリー法は、経営者がSEC(米国証券取引委員会)に対して提出する年次および四半期ごとの報告書について、最高経営責任者(CEO)および最高財務責任者(CFO)の宣誓書を要求したり、監査業務とコンサルティング業務を監査法人が兼任することを原則として禁止したりするなど、その内容は多岐にわたる。

 内部統制との関係では、同法404条が重要である。404条は、以下の事項を記載した経営者の報告書が年次報告書に含まれていることを要求している。

(1) 財務報告に係わる内部統制を確立し維持する責任は経営者にあるということ
(2) 直近の決算期末現在における財務報告に係わる内部統制の構造と手続きの有効性に関する経営者の評価

 また404条2項では、会計監査人は経営者による内部統制の評価を証明し、報告しなければならないと規定し、会計監査人に対して内部統制の評価と報告を要求している。これが米国SOX法の概要である。

 当初は、経営者の萎縮効果や大幅なコスト増加などの悪影響が心配されたSOX法であるが、現在ではそれほど大きく問題視されているわけではなく、経営者の不正防止のための法制度として定着してきているようである。

日本版SOX法の成立 ~ 日本でも不祥事が多発

 日本では、1991年に相次いだ大手証券会社の損失補填事件や、1997年の山一証券の粉飾決算事件など、従来から上場会社が投資家の信頼性を損なう事件が絶えなかった。2002年に米国でSOX法が成立した直後においても、西武鉄道事件や鐘紡事件など情報開示・ディスクロージャー制度の信頼性を損なう巨額の粉飾決算あるいは有価証券虚偽記載といった事件が多発した。

 こうした事件を受けて、日本でも2003年の証券取引法改正により、有価証券報告書などの記載事項に「コーポレートガバナンスの状況」が追加された。2005年の改正では、コーポレートガバナンスの記載事項に(1)内部監査等の状況、(2)社外取締役および社外監査役の独立性確保、(3)会計監査人の監査体制や監査勤続年数などの開示、といった統制環境にかかわる内容の開示が義務づけられた。また、各証券取引所が経営者に宣誓書や確認書を提出させる制度を導入するなど、制度上の手当てがなされた。

 他方、関係省庁においても、経済産業省が2003年6月に、いわゆる「日本版COSO」報告書(「リスク新時代の内部統制—リスクマネジメントと一体として機能する内部統制に指針—」)を発表。さらに2005年7月には、同報告書の続編的報告案を公表した。

 また金融庁も、2004年12月に「ディスクロージャー制度の信頼性の確保に向けた対応(第二弾)について」を公表し、「財務報告に係る内部統制の有効性に関して、経営者による評価と公認会計士などによる監査の義務化を検討する」との方針を示した。そして上記の金融庁の方針を踏まえた監査基準の策定の検討が企業会計審議会において行われ、その成果は2005年12月に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」と題する内部統制部会報告として公表された(その内容は本稿の第1回において簡単に紹介させて頂いた)。