今回は,銀行の情報システムの理解に欠かせない3つの重要なテーマ――(1)M&Aとシステム統合,(2)BIS自己資本比率規制とリスク管理,(3)決済システムの最新動向について解説する。

 前回述べたように,98年の金融持株会社の解禁以降,大手金融機関による金融コングロマリットの形成に伴って,銀行のM&A(企業の合併・買収)が相次いだ。

 M&Aで2つの銀行が合併する場合,両行のシステムを統合する必要がある。このシステム統合は早ければ早いほどよい。なぜなら,合併に伴う経費削減の多くが,システム統合に依存しているからである。例えば,同規模の銀行による対等合併の場合,経費削減額の多くは店舗統廃合による人件費削減によってもたらされる。店舗統廃合のためには商品・サービスやビジネスプロセスが統合されている必要があり,これはシステム統合が前提になる。

 また,M&Aに伴って2つの銀行のシステムを統合する場合「どちらの情報システムを残すか」が,両行にとって大問題となる。これは,なぜだろうか。

 その大きな理由の一つは,情報システムが銀行員の雇用問題や生きがいに直結していることである。銀行の情報システム部門には,稼働中の情報システムに精通していることによって存在価値を認められている人たちが多数存在する。営業店にも,稼働中の「勘定系システム」に密接に関係している事務手続きに精通する“生き字引”のような人たちが存在する。

 もし,情報システムが変更されたら,その人たちは“ただの人”になってしまうため,人員整理の対象になりかねない。たとえ残留したとしても,今までの蓄積を捨てて一からの出直しになる。こうしたことから,どちらの情報システムを残すのかが,合併する両行の職員にとって,常に大問題になるのである。

日本で最も多いタイプは「片寄せ統合型」

 銀行のM&Aには,2つの銀行が合併して1つの新銀行になるケースや新しい持株会社の下に合併した新銀行を置くケース,持株会社の下に買収した銀行を置くケースなど,様々な形態がある(図1)。

図1●主なM&Aの形態
図1●主なM&Aの形態
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 また,システム統合にも,一方のシステムを廃棄する「廃棄・吸収型」,両行のシステムをそのまま使用して連携機能を追加する「共存型」,どちらかの基盤システムを選んで必要な機能を追加する「片寄統合型」,両システムの“いいとこ取り”をする「最善追求型」など,様々なタイプがある(図2)。

図2●システム統合のタイプ
図2●システム統合のタイプ
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 システム統合のタイプは,M&Aのタイプと密接に関係する(図2参照)。対等合併の形をとる場合が多い日本では,最も多いのは「片寄統合型」である。勘定系システムはA銀行のものを基盤システムとして採用し,国際系システムはB銀行のものを基盤システムとして採用するというように系システム単位くらいの大きさで基盤システムを選択し,その上に,もう一方の銀行の情報システムが持つ機能のうち,どうしても必要な機能を追加する形だ。

 片寄統合型や最善追求型では,通常,合併後のシステムが稼働する前に,「合併日対応システム」を開発する。

 銀行の合併は看板をかけ替えて,新しい組織を作れば済むというものではない。新銀行発足のその日から,外部システムから見て1つのシステムとして機能しないと困ることになる。A銀行とB銀行が合併してAB銀行になったとすると,全銀システムに加盟している他の銀行からのメッセージはAB銀行宛てに送られてくる。また,旧A銀行支店のATMから旧B銀行口座への入金があった場合,合併日前は他行取引だが,合併日からはAB銀行内の取引として扱わなくてはならない。

 とはいえ,システム統合には時間がかかるので,合併日に統合が間に合わないことがほとんどだ。そこで,別々に存在する両行の情報システムをあたかも一つのシステムのように見せかける「合併日対応システム」を開発するわけである。

 例えば勘定系システムの場合,旧A銀行の勘定系システムと旧B銀行の勘定系システムをリレーコンピユータ(RC)で接続し,RCで取引の管理やデータフォーマットの変換などを行う。旧A銀行のATMから旧B銀行の口座への入金取引は,一度旧A銀行のシステムに入り,RC経由で旧B銀行システムに渡され,入金処理された後,再びRC経由で処理結果が旧A銀行システムに返される。全銀システムなど外部システムからの窓口(インタフェース)は,どちらかの銀行の対外系システムに一本化して対応する。