前回は,銀行の基本的な役割や情報システムの発展経緯について解説した。今回は,銀行の基本的な業務の流れと銀行情報システム(第三次オンライン)の構成,銀行の代表的な商品・サービスの仕組み,銀行間決済のプロセスについて詳細に解説していこう。

 現在の銀行情報システム(第三次オンライン)は,「勘定系システム」「情報系システム」「対外系システム」「国際系システム」「資金・証券系システム」「営業店系システム」---という6つの「系システム」から成る大規模オンライン・システムである(図1)。ただし,すべての系システムが同時に開発されたわけではない。銀行により各系システムの開発順序は異なる。

図1●第三次オンラインの構成
図1●第三次オンラインの構成
第三次オンラインでは,勘定系システムのデータを情報系システムに取り込んで蓄積する仕組みが構築された。矢印がその流れを示す。

 複数の系システムに分割したのは,ある系システムの変更の影響が他の系システムに及ばないようにするとともに,システム要件が異なる系システムごとに最適なプラットホーム(ハード,OSなど)を選択可能にするためである。系システムごとに開発要員に求められるスキルが異なるという理由もあった。

 最初に,第三次オンラインを構成する6つの系システムの中心的存在である勘定系システムについて説明しよう。

 銀行の業務は「銀行法」で規定されている。銀行法第十条(業務の範囲)によれば,銀行が行える業務は,(1)預金,貸し出し,為替(振り込みや送金による現金を使わない決済)という「銀行固有業務」と,(2)債務保証や有価証券の販売,両替といった「銀行業に付随する業務」---となっている。預金,貸し出し,為替のことを,銀行の「三大基本業務」と呼ぶこともある。この三大基本業務にかかわる取引を処理しているのが勘定系システムにほかならない。

伝票の流れを忠実にソフトウエアで実現

 預金,貸し出し,為替にかかわる基本的な取引は現金入金,現金出金,口座振替の3つだ。第一次オンライン以前は,これらの取引を手作業で処理していた(図2)。

図2●普通預金入出金と口座振替の営業店における処理の流れ(オンライン化以前)
図2●普通預金入出金と口座振替の営業店における処理の流れ(オンライン化以前)
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 例えば,普通預金に10万円の現金入金があった場合,処理の流れは次のようになる。

(1)顧客が窓口で10万円の普通預金預け入れ票を起票し(これが銀行内部でそのまま入金伝票として使用される),現金および通帳と一緒に提示する。

(2)窓口係が入金伝票と現金を精査し,伝票と通帳を記帳係に回す。

(3)記帳係は普通預金元帳の保管ファイル(元帳は紙のため,口座を開設した支店にしか保管されていない)から当該顧客の元帳を取り出す。元帳は,すべての取引の日付,貸方,借方,残高,残高積数(後述)などが記入された帳簿で,記帳会計機(通帳や元帳,伝票に記帳・印字するための機械)に差し込めるよう厚紙でできている。

(4)記帳係が,元帳と通帳の入出金の記録を比較。元帳には記入があるのに通帳には記入がない取引がある場合(通帳未記入の場合),記帳会計機を使って,通帳に「後日記帳」の形で記帳する。通帳未記入は,例えば無通帳での入金や自動引落で発生する。

(5)記帳係が入金伝票を見ながら,10万円の現金入金取引があったことを記帳会計機にキーボード入力。次に元帳,通帳,伝票を記帳会計機に挿入して記帳・印字する。伝票に印字するのは,取引の証憑(しょうひょう,取引が発生した事実を証明する証拠のこと)である伝票に記載されている取引が,実際に記帳会計機でどのように処理されたのかを記録として残しておくためである。これを「認証印字」と言う。

(6)窓口係が,通帳と伝票を点検し,顧客に通帳を返す。

 印字済みの伝票はファイルに保管され,これを基に日記帳(仕訳帳)と総勘定元帳が作成される。記帳済みの元帳もやはり一個所にファイルされ,決算時の利盛作業(利息を元帳に記入する作業)に備えて残高積数(残高増減高と利息決算日までの日数を掛け合わせた数字)を記入しておく。残高積数を記入するのは,期中に残高が何度も変動する口座の利息を,決算時に比較的簡単に計算するためである。いちいちソロバンで計算するのは大変なので積数早見表を参照しながら記入する。

 10万円の現金出金があったときの流れもほぼ同様である。現金入金の場合との違いは,(1)本人確認のために印鑑照合の作業と,(2)元帳残高が10万円以上あることを確認する作業が入ることだ。

 顧客が自分のA口座から10万円を出金して,別の支店のB口座に10万円を振り込む場合は,取引は2つに分かれる。1つはA口座からの出金で,これは上で述べた現金出金の場合とほぼ同じだ。もう1つはB口座への入金。B口座がある支店に振込伝票が送られ,そこで入金処理される。

 65年に稼働が始まった第一次オンラインでは,こうした営業店での伝票の流れを分析し,それをソフトウエアで忠実に実現した。これが現在の勘定系システムの原形だ。勘定系システムの設計思想は,このときから基本的には変わっていない。

 図3に,第三次オンラインにおける現金入金,現金出金,口座振替の処理の流れを示す。窓口係は取引を記帳端末機に入力し,伝票と通帳を記帳端末機に挿入して印字するだけでよい。後はすべてシステムが処理してくれる。

図3●普通預金入出金と口座振替の営業店処理イメージ(第三次オンライン)
図3●普通預金入出金と口座振替の営業店処理イメージ(第三次オンライン)
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 第三次オンライン以前は,窓口係と記帳係の間で事務処理の待ち行列ができることがあった。しかし第三次オンライン以降は,窓口係がすべての処理を行う「一線完結型」になり,窓口係が記帳係を兼ねることになった。このため事務処理の待ち行列がなくなり,顧客の待ち時間の短縮が大幅に短縮された。印鑑照合も,窓口係が印鑑簿を抜き出すためにわざわざ歩かなくても,オンライン印鑑照合機で窓口に座ったまま実施できるようになった。さらに,ATMの画面操作で伝票内容を入力できるようになったため,顧客が伝票を起票する必要もなくなった。