最初のPart1では,IPv6とはなにか,IPv6アドレスの扱い方,IPv6パケットの構造,IPv6アドレスの構造,アドレス自動設定のしくみといった,IPv6の基本的な技術知識を習得しよう。

 IPv6は着々と近づいてきている。対応製品やサービスが登場し,今すぐにでも使えるようになった。ある日突然IPv6ネットにつなぐことになっても大丈夫なように,IPv6を学んでおこう。

  最初のPart1では,IPv6の基本的な技術知識を習得しよう。次のPart2は,パソコンでIPv6を動かすのに最低限必要な設定などを見ていく。ここまでわかれば,車でいえば仮免許に合格している段階といえる。将来,IPv6の導入を検討したり,実際に使う必要が出てきたときに,少しの練習で実用レベルに到達できるようになるはずだ。

IPv6とはなにかを理解する
アドレス不足から生まれたプロトコル

 インターネットを支えているのはIP(internet protocol)というプロトコル。現在のインターネットではIPv4(アイピーブイヨン)と呼ばれるバージョンが使われている。IPv6はこのIPv4の次期バージョンに当たるプロトコルだ。では,IPv6とIPv4ではどこが違うのだろうか。現状のIPv4でもとくに不自由なく世界中の人がインターネットで通信できているように思えるのに,なぜ新しいIPv6が必要なのだろうか。

 その理由はいくつかあるが,最大の理由はアドレスにある。今使っているIPv4では,通信相手を識別するために必要なIPアドレスが不足し,近い将来枯渇してしまうおそれがあるのだ。IPv6は,IPアドレスの不足を解消することを第一の目的として開発された。具体的にいうと,IPv6のアドレスは,IPv4の32ビットに対して4倍の長さの128ビットに拡張している(図1)。

図1●IPv6を押さえるにはまずIPv6アドレスについて知ろう<br>IPv4と比べものにならない大きさのアドレスを表現するために表記方法が工夫されている。
図1●IPv6を押さえるにはまずIPv6アドレスについて知ろう
IPv4と比べものにならない大きさのアドレスを表現するために表記方法が工夫されている。
[画像のクリックで拡大表示]

 128ビットがどのくらいの数かというと,10進数で表現すると39桁の数値になる(図1)。これほど大きな数になると現実感はとてもわかないが,たとえば地球の表面積(海面部分も含む)にまんべんなくIPv6アドレスを割り当てるとしても,1平方マイクロm(1平方mmの100万分の1)あたり6000億個以上のIPv6アドレスを割り当てられる計算になる。128ビットというのは,もはや無限大といえるほど巨大な数なのである。

IPv6アドレスの扱い方
独特のアドレス表記法に慣れよう

 IPアドレスが128ビットに拡張された結果,使えるアドレスが増えるのは嬉しいことだが,逆に人間にとっては不都合も出てくる。アドレスが長すぎて扱いにくくなるのだ。

 IPv4アドレスは,32ビットのアドレスを8ビットずつひと固まりにして10進数に変換し,間を「.」(ピリオド)で区切った形式で表現した。例えば,「192.168.100.254」といったアドレス表記になる。しかし,IPv6でこの表記方法を使うと,0から255までの10進数が16個も並ぶことになる。これではメモに書き取ることもつらくなる。そこでIPv6では,一工夫したアドレス表記方法を採用した。次はこのIPv6アドレスの表記方法を覚えよう

 では,IPv6アドレスはどう表記するのか。IPv6では,128ビットを先頭から16ビットごとに区切ってこれを16進数に変換し,それらを「:」(コロン)でつなぐことにした。つまり,「3ffe:2002:500a:c12a:1e12:ff01:fe41:921d」といった形でアドレスを表現する。こうすれば,アドレスはかなり短く表記でき,実用上なんとかメモをとるぐらいはできるようになる。

 ただ,そうはいってもまだ長いのは事実。そこで,各ブロックの先頭にある0やあるいは0が連続するブロックを省略できる記述方法も決められている。たとえば,図1のように3ffe:2002:0000:0000:0000:0000:03ab:ff01というアドレスがあったとしよう。ここでまず,『各ブロックの先頭にある0は,一の位にある0以外は省略できる』というルールがある。これを適用すると,上のアドレスは,3ffe:2002:0:0:0:0:3ab:ff01となる。

 このままでもIPv6アドレスの省略記法として通用するが,さらにもう一段階省略できるルールも決まっている。それは,『値が0のブロックが連続している場合は,これをまとめて“::”としてくくれる』というものである。これを適用すると,先ほどのアドレスは,3ffe:2002::3ab:ff01とさらに短く表現できる。ただし,これが使えるのは一つのアドレス中で1カ所だけ。その理由は,2カ所以上「::」を使うと,それぞれがいくつ「0:」を省略したかわからなくなるからだ。

 この省略記法を使うメリットは実際にパソコンでIPv6アドレスを入力必要があるケースで出てくる。たとえば次のPart2で登場する,自分のパソコンを示す特別なIPv6アドレスは「::1」と表現できる。このようにネットワーク管理者などが使う可能性がある基本的なIPv6アドレスは暗記もできるようになっている。