Part1ではまず,昔からある電話と比べでIP電話にはどんなメリットがあるのかや,IP電話のしくみの概要,一般的なTCP/IPアプリケーションと異なりIP電話ではさまざまな工夫が必要になることを,説明していこう。
Webアクセスや電子メールなどのコンピュータ通信に使っているIPネットワーク上で,われわれの日常生活に欠かせない存在である電話を使えるようにする――。こうした「IP電話」を実現するための基盤技術がVoIPである。
昔からある電話のしくみは,自宅の電話機や会社にあるPBXと電話局にある電話交換機の間を電話線で結び,電話をかけると電話局の交換機が音声を次々と中継して相手まで音声を伝えるというもの(図1)。IP電話はこのしくみを,インターネットや社内LANなどのIPネットワーク上で実現するものだ。
IP電話が脚光を浴びるワケ
なぜIP電話なのか――。その理由は,IP電話にはいくつものメリットがあるからだ。
まず,値段の高い電話交換機の代わりに割安なルーターを使える点が挙げられる。すでにルーターでIPネットを構築していれば,電話専用の設備はもういらなくなる。これまで別々だった電話とコンピュータのネットを一つにまとめることで,運用も楽になる。電話会社にとっても,電話サービスを提供するのにかかるコストを抑えられる。
また,パソコンや携帯情報端末などTCP/IPが使えるさまざまなネットワーク機器を電話機として利用できるのもメリットの一つだ。さらに,パソコンなどからIP電話を使うことで,WebアクセスとIP電話を連動させるといったしくみも簡単に実現できる。つまりIP電話には,電話が安く,便利になるというメリットがあるのだ。
では,IP電話はどう実現されるのだろうか。
もちろん,通話相手まで送る音声信号をIPパケットにしなければならない。そのためには,ユーザー側で音声をディジタル信号に変換し,IPパケットを作り出す必要がある。その役割を果たすのが「VoIPゲートウエイ」と呼ぶ装置。電話機とIPネットワークの間に置き,既存の電話機からIP電話を使えるようにする(図1)。通話先の相手を見つけるといった,制御用の通信も行う。
VoIPゲートウエイが送り出した音声パケットは,IPネットワークを構成するルーターがほかのIPパケットと同じように,あて先IPアドレスを見て次々と転送する。パケットが相手のVoIPゲートウエイまで届いたら,今度は送り出すときとは逆の処理で,音声信号を電話機に渡す。
IPは電話に向いていない?
こう見ていくと,IP電話もファイル転送やWebアクセスと同じだと考える読者がいるかもしれない。しかしそれは間違いだ。なぜなら,IPネットワーク自体が電話というアプリケーションに適しているとはいえないからである。
IPネットワークは一般的に,「ベストエフォート型」のネットワークである。つまり,空いていればスイスイとデータが送れるが,混雑すると少しずつしかデータを流せない。この点が,専用の通信回線を使って確実に相手まで声を届けられる電話のネットワークと大きく違う。
こうした違いは,Webサーバーへのアクセスやファイル転送など一般的なTCP/IPアプリケーションを使う分にはあまり問題にならない。パケットが到着するのが多少遅れても最終的にデータが届きさえすればいいからだ。しかし電話の場合はそうはいかない。相手とリアルタイムに音声をやりとりできなければ会話が成り立たない。つまり,日ごろ使っている電話と同じようにIPネットワークで音声をやりとりするには,さまざまな工夫が必要になるのである。