ITサービスマネジメントのあるべき姿を実現するためのベストプラクティス「ITIL」。Part1では,「サービスサポート」および「サービスデリバリ」をはじめとするITIL書籍集の構成や,ITILの基本的な概念,資格制度などについて説明しましょう。

 ITILとはInformation Technology Infrastructure Libraryの略であり,全7冊から成る書籍集のことを指します。

 ITILは,1980年代に英国商務省(OGC=Office of Government Commerce)が,英国経済が伸び悩んでいる原因として「ITの活用が十分ではない」ことを挙げ,その解決策として様々な企業や組織のITサービスマネジメントの「ベストプラクティス(成功事例)」をフレームワークとしてまとめたものです。アプリケーション開発から日々のIT運用に至る,IT組織としての活動を体系立てて解説しています。

 現在ではビジネスの形態や業種を問わず,IT運用の改善や最適化のために世界中で使われており,ITサービスマネジメントのデファクトスタンダード,事実上の世界標準となっています。さらに,2005年には英国標準規格BS15000,2006年には国際標準規格ISO/IEC20000として規格化されています。

 ITIL Ver2の書籍集の構成は表1のようになっており,「セキュリティ管理」を除いて日本語化され,出版されています。

表1●ITIL書籍集7冊(Ver2)の構成<br>この他にも数冊のポケットガイドが出版されており,一部は日本語化され購入することが可能です。
表1●ITIL書籍集7冊(Ver2)の構成
この他にも数冊のポケットガイドが出版されており,一部は日本語化され購入することが可能です。
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 日本では,一般的にITILと言った場合,「サービスサポート」(青本)と「サービスデリバリ」(赤本)のことを指します。しかし,ビジネスとITの融合,ビジネスに対して価値を創造するIT組織(情報システム部門や情報子会社,ITベンダーなど)の役割,IT組織の成熟度といったITILの重要な概念を理解するには,「サービスマネジメント導入計画立案」や「ビジネスの観点 サービス提供におけるISからの視点」,「アプリケーション管理」も読むことをお勧めします。

 「サービスサポート」は,ITサービスマネジメントの1つの「機能」と5つの「プロセス」について体系的に記述しています(表2)。

表2●サービスサポートの内容
表2●サービスサポートの内容
サービスデスクは「機能」,そのほかは「プロセス」である。

 これに対して「サービスデリバリ」はリスクに基づいてITサービスマネジメントを実行するうえで必要な5つのプロセスについて,体系的に記述しています。これらは,「サービスサポート」に記述された機能とプロセスを実施するために必要な,基本的なプロセスと言えます(表3)。

表3●サービスデリバリの内容
表3●サービスデリバリの内容

 なお,現在ITIL Ver3のプロジェクトが進行中で,2007年5月後半にVer3の出版が予定されています。現在の7冊から5冊構成になるとともに(表4),より一層ビジネスの観点を強く意識したうえで,アプリケーション開発から運用に至るITサービスのライフサイクルの考え方を取り入れた内容へと変化し,現在のVer2よりも読みやすくなるとのことです。ただし,Ver3の基本的な概念は既にVer2の「アプリケーション管理」の中で解説されているとも言われています。

表4●ITIL Ver3の構成
表4●ITIL Ver3の構成