パソコンの電源を入れただけ,あるいはパソコンにLAN ケーブルをつないだだけでネットワークにつながるのは「DHCP」というしくみが働いているから。しかし,IPアドレスもないパソコンがどうしてネットワークから設定情報を取得できるのか。Part1では,このDHCPの概要を見ていこう。

 パソコンを職場や自宅のLANにつなぐとき,IPアドレスなどの情報を設定しなければ,ネットワークにはつながらない。ネットワーク管理者から使ってもいいIPアドレスを教えてもらって,自分のパソコンに設定したことがあるユーザーもいるだろう。自分のパソコンにIPアドレスなどを設定するのは,ネットにつなぐ作業の基本である。単純にケーブルをパチンと接続すればいいというものではない。

 でも最近は,自宅から持ってきたノート・パソコンを社内LANのケーブルにつなぐ。あるいは,夜,自宅に持ち帰ったパソコンをブロードバンド・ルーターに接続する。これだけで,社内のサーバーやインターネットにアクセスできる場合が多い。

 実は,このようなときにパソコンの中で動いているのが,今回取り上げるDHCP(ディーエイチシーピー)である。DHCPとは,Dynamic Host Configuration Protocolの略で,端末のネットワーク設定を自動化するためのプロトコルだ。このDHCPのおかげで,パソコンはLANケーブルなどでネットワークに物理的に接続すれば,ネットワーク接続に必要なIPアドレスなどの設定情報を自動的に取得して動き出す。

 DHCPは,設定情報をもらうパソコンと情報を配るサーバーとの間のパケットの応酬である。もちろん,パソコンの電源が入った直後(あるいはLANケーブルで接続した直後)にパケットの応酬が始まる。パソコンが「設定情報をほしい」と叫ぶと,サーバーが情報を教えるのである(図1)。

図1●DHCPはIPアドレスなどの設定情報をもらうしくみ
図1●DHCPはIPアドレスなどの設定情報をもらうしくみ
電源を入れたばかりのパソコンに重複しないIPアドレスなどを自動的に割り当てるしくみがDHCPだ。

便利だが,落とし穴もある

 DHCPを使えば,ネットワークに関する知識や情報がない一般ユーザーでも,簡単にネットワークに接続させられる。いちいちパソコンのネットワーク設定画面を開いてIPアドレスなどを打ち込まなくていい。また,同じノート・パソコンを家でも会社でも使っているような人なら,つなぐ先を変更するたびにネットワーク設定を手作業でいちいち変更する手間が省ける。

 ネットワーク管理者の立場からみても,新しいパソコンを入れるたびに手作業でパソコンの設定をいじったりする必要がなくなる。

 こうした便利な面がある一方で,DHCPはパソコンがネットワークにつながらないといったトラブルを引き起こす原因にもなる。便利だが,落とし穴もあるのだ。普段はなかなか意識することがないDHCPだが,私たちのまわりに浸透している。

 このあとに続くPart2の基本編で,どうやってパソコンが設定情報を取得しているのかというDHCPの本質を確認する。そして,Part3の実用編で,実際の現場で使ったときに起こる典型的なケースを想定し,そのときにDHCPがどう動くのかを確認する。基本編でしくみ,実用編で実践現場での動きを理解すれば,もうDHCPは完璧だ。