Part2では,(1)データ収集,(2)データ蓄積,(3)Query & Reporting,(4)データ分析(OLAP),(5)モニタリング(ダッシュボード)という5つのステージの順に,各ステージで利用するツールの機能を説明しよう。

 パート1では,意思決定支援システムの歴史を述べてきた。パート2では,意思決定支援システムの機能について見ていきたい。

 一般的な意思決定支援は,大まかに次の5つのステージに分類することができる(図3)。

(1)データ収集
(2)データ蓄積
(3)Query & Reporting
(4)データ分析(OLAP)
(5)モニタリング(ダッシュボード)

 そして,次のような各ステージに適したツールが利用される。

(1)データ収集…ETL(Extract/Transform/Load)
(2)データ蓄積…データ・ウエアハウス/データ・マート
(3)Query & Reporting…Business Intelligence(BI)
(4)データ分析(OLAP) …Business Intelligence(BI)
(5)モニタリング(ダッシュボード)…Business Intelligence(BI)

図3●意思決定支援システムの5つのステージ
図3●意思決定支援システムの5つのステージ

 以下,それぞれのステージとツールについて,説明しよう。

データ収集…ETL(Extract/Transform/Load)

 まずは意思決定に必要になる情報を集めるという作業が必要だ。ETLは,その名の通り,基幹系業務システムなど複数の「データソース」からデータを抽出(Extract)したうえで,それを適切な形式に変換(Transform)し,データ・ウエアハウスなど対象のデータベースにロード(Load)する機能を持つ。

 これら3つの機能の中では,データの整合性や妥当性をチェックして修正する「クレンジング」を実施する変換処理が特に重要である。具体的には,明細データとマスター・データの整合性をとったり,メインフレームの漢字コードをシフトJISに変換したりする。

 このステージの処理はプログラムやスクリプトで対応することも可能だが,あまりお勧めできない。なぜなら意志決定支援システムは戦略にかかわるため,柔軟性とスピードが求められるからだ。企業の戦略が変われば,見たいデータも発生するデータも変化する。それらに対する改変作業をプログラム開発で行っていたのでは非効率である。やはり,市販のETLツールを利用した方が効率的だ。

データ蓄積…データ・ウエアハウス/データ・マート

 データ・ウエアハウスとは,企業内の様々なシステムからデータを集積して構築する大規模データベースのことを言う。データ・ウエアハウスは,意思決定を支援するためのデータベースであるため,データの「更新処理」は行わず,データは目的別,時系列に編成される。

 データベースとしては,OracleやSQL ServerなどのRDBMSが用いられることが多いが,IBMの「IBM Red Brick Warehouse」など,データ・ウエアハウス専用のRDBMSも存在する。

 データ・ウエアハウスでは,検索で高いパフォーマンスを実現しなければならない。このため,「スター・スキーマ」と呼ぶ構造が用いられるのが一般的である。スター・スキーマは,中央に分析対象の大きなテーブル(Fact)を配置し,その周辺に参照用のマスタ・テーブルを配置した,星型の構造となっている。

 一方データ・マートは,データ・ウエアハウスから部門や個人の使用目的に応じて,必要なデータを抽出して格納したデータベースのことである。このため,「目的別データ・ウエアハウス」と呼ぶこともある。

 データ・マートは,用途に応じて2タイプに分類することができる。

 1つは,RDBMSを用いる「明細データ型」である。このタイプは,商品や顧客の分析を行う場合など,詳細なデータを必要とする場合に用いられる。

 もう1つは,「多次元データベース」を用いる「集計データ型」である。多次元データベースとは,複数の属性項目(次元)を次々に切り替えてデータを検索・集計できるデータベース。任意の2つの属性項目を選ぶと,即座に2次元の表形式でデータを表示する。製品としてはハイペリオンの「Essbase」などがある。

 このタイプは,管理会計や原価管理など,集計した結果から2次的に生み出される指標が重要視される場合に用いられる。また,会計費目の表現や配賦の組み込みなどが得意なほか,事前にすべてのデータを集計するため高速なレスポンスが実現される。これらの特徴により,P/L(損益計算書)などのデータをベースとした意思決定支援システム向きのデータベースと言える。

Query & Reporting…BI

 データ・ウエアハウスなどのデータベースに格納されたデータの取得(Query)には通常,SQLが必要になるが,BIでは,SQLを知らなくてもデータを取得できる機能が,基本機能として提供されていることが多い。GUI画面から見たい項目を選択したり条件を設定したりすると,その結果を得ることができる。

 レポーティング機能は,取得したデータを適切なフォーマットに整形し,配信する機能である。発注書,残高確認書といった定型ビジネス文書のほか,任意のフォーマットによるレポートを作成できる(ただし,帳票やグラフの表現力といった点では,使い慣れたExcelを好むユーザーも多い)。

データ分析(OLAP)…BI

 OLAPとは,蓄積されたデータを検索・集計して,あらかじめ立てておいた仮説を検証するための分析またはツールを指す。OLAPは,エンドユーザーに直接かかわるプロセスを担うツールであるため,意志決定支援システムでは,特に重要視されている。

 例えば,スポーツ用品の製品カテゴリ別の販売実績・予算・予実データを見て,ゴルフのカテゴリの実績が予算(目標)値を超えたことが分かったとしよう(図4左)。ここで,次の疑問が浮かぶはずだ。「なぜゴルフのカテゴリは予算を達成したのだろう?」。その回答を得るためには,製品別の販売実績など,より細かいデータが必要になるだろう(図4右上)。図4では,テニスのカテゴリは,予算を達成していない。この場合は,例えば支店ごとの販売実績を見ることで,地域の特性によるものなのかどうかを知ることができるだろう(図4右下)。

図4●OLAP分析の例
図4●OLAP分析の例

 このように,あるデータをより詳細なデータに掘り下げたり(ドリルダウン,図2では製品カテゴリを製品別に詳細化している),ある分析軸の一つの項目でデータを絞り込んだり(スライシング,図2では製品カテゴリという分析軸のテニスという項目でデータを絞り込んでいる)することで,結果がなぜ起こったのを探る分析が可能になる。このほか,2つの分析軸の組み合わせを切り替える「ダイス」やドリルダウンの逆の操作である「ドリルアップ」などがある。

モニタリング(ダッシュボード)…BI

 ダッシュボードとは,ビジネスに関するさまざまな指標を,グラフなどビジュアルな要素で画面上に表示する機能である。ダッシュボードによって,企業のパフォーマンスをモニタリングして分析・改善することが可能になる。バランス・スコアカードとの連携をサポートしているツールもある。

 特に,CPM(Corporate Performance Management)を実現するためにBIを導入するケースでは,企業のパフォーマンスをモニタリングするために,このダッシュボードに注目が集まっている。

 運転に必要な速度やエンジン回転数,ガソリン残量などの情報を集約して表示する車の「ダッシュボード」と同様,経営に必要な数字を集約し一画面で表現する(図5)。ダッシュボードは,大量に集められた意思決定のための情報を活かすソリューションとして,今後ますます需要拡大が予想される。

図5●ダッシュボードの画面例
図5●ダッシュボードの画面例
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