「インターネット白書2006」(財団法人インターネット協会監修)によれば,日本国内のインターネット利用者数は7300万を超え,いまやインターネットのないビジネス環境は考えにくい状況になっている。本講座では,BtoC型ECサイトを成功させるための,ビジネス面から見たポイントをタイプ別に見た後で,ECシステムの構成と構築時のポイントを解説していく。

 EC(電子商取引)を大別すると,BtoB(Business to Business)取引とBtoC(Business to Consumer)取引に分けられる。BtoB取引に関して言えば,ECチャネルは新ターゲット層の開拓というよりは,商取引の基本インフラとして既存顧客からの要求に対応することが重要である。一方,BtoC取引は,事業や競争環境によって企業側の選択肢が広いため,自社のECに対するスタンスを明確にしたうえで,投資判断をすべきである。

BtoC型取引には4つのタイプがある

 まずは,BtoC型ECサイトを成功させるための,ビジネス面から見たポイントを,タイプ別に見ていこう。BtoC取引は,表1に示すように,4つのタイプに分類できる。

表1●BtoC型ECの4つのタイプ
表1●BtoC型ECの4つのタイプ
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 Aのタイプは,ECのみでサービスを展開している企業,あるいはECインフラを自社の主要チャネルととらえ,サービス向上に向けた投資を積極的に実行している企業が該当する。

 このタイプの企業は,何らかの理由によりサービスが止まった場合に売り上げが大きく落ち込むため,インフラ整備としての投資は手厚く実施せざるを得ない。このタイプでは,黒字が見込まれる主軸となるサービスを確実に守ることがもっとも重要なテーマとなる。業績が上がらないことへの対策として新たなサービスに投資することは,負のスパイラルを形成することになりかねない。

 主軸となるビジネスを保有していれば,投資余力の範囲で新たなサービスへの参入は積極的に実施すべきだ。商品・サービスの販売という取引の基本商流だけではなく,他社へのインフラ提供やECマーケティング・ビジネスへの拡張など,自社のECインフラ自体からプロフィットを生み出すような仕組みの構築など,選択肢の幅は広い。

 Bのタイプは,販売店で製品・サービスを提供しつつ,ECでも相応の取引がある企業が該当する。このタイプは,ECを“一つの店舗”として公平にとらえ,販売店と同等の予算責任や数値管理が徹底される。状況によっては,顧客を販売店と取り合ってもやむを得ないと判断する。

 EC自体でプロフィットを創出するという考え方だが,Webページを定期的にメンテナンスして顧客の購買を待つ,という図式ではなかなか採算が取れない場合が多い。このため,ターゲット顧客を考慮したプロモーション活動を実施し,新規開拓および既存顧客の囲い込み施策を本格的に実施しなければならない。

 販売店とは異なる独自の品揃えにしたりインターネット特別価格を設定するなど,販売店との差別化を徹底させるかどうかも大きなテーマとなる。直販店と本気で競争するかどうかをはっきりさせておくことが重要なのである。

 このタイプは,EC事業のP/Lに責任を負うため,サービスレベルの維持・拡大への投資と固定費の抑制という費用面での管理と,売上予測による将来的な損益分岐点の明確化も,重要なポイントである。EC運営の人件費や物流コスト,IT費用を抑制し,売り上げの変動を吸収できるようにする必要がある。

 Cのタイプは,ビジネスの主要なチャネルとしては販売店がメインで,販売店と競合してまでもECの売り上げを伸ばすつもりがない企業が該当する。このタイプは,現状のまましばらく運営を続けていくか,Bのタイプへ転換するか,あるいは撤退を視野に入れるのかという論議と常に隣り合わせである。その判断基準は,当然ECの事業収支となる。EC事業が黒字化している企業は,現状を維持するか,Bのタイプへの移行を検討するだろう。残念ながら収支が赤字になっている企業は,赤字をマーケティング費用または顧客サービスの一環ととらえてP/Lの責任を追及しないのか,あるいはコストを削減して赤字縮小を目指すのか,完全に撤退するのか,といったことを徹底的に議論すべきだ。

 最後のDのタイプは,Bのタイプのように真っ向から販売店と競争するのではなく,ECと販売店の相互のデメリットを補う形での共存を模索するタイプである。ECを今後も確実に伸びるチャネルととらえて,Webページから販売店への誘導を図ったり,Web上の注文商品を販売店で受け取るなど,販売店とECの共存を狙う。

 Web上の画像・動画技術がいかに進歩しても,実物を手に取った時の印象には勝てない。問い合わせも,会話によるコミュニケーションのほうが早く,取得できる情報の幅も広い。一方ECサイトは,店舗に移動する時間や営業時間の制約がなく,品切れの確認もしやすい。このような双方のメリットを踏まえて,ECサイトで販売店の在庫確認ができるサービスを実施したり,個別販売店のキャンペーン情報をECサイトで掲載するなどの販促施策や,販売店へのEC端末の設置やECサイトを紹介するチラシの配布など,相互に顧客を誘導する仕組みを検討することが重要である。