要件があいまいで手戻りが発生した,バグ修正のために予想以上に工数がかかった――。進ちょくの遅れに直結するリスクが多様化するにつれて,納期や予算を順守できないプロジェクトが増えている。今こそ「EVM」を導入し,進ちょく状況を“可視化”するべきだ。
富士通は「受注額1億円以上」のすべてのプロジェクトを対象に「EVM(Earned Value Management)」と呼ぶ進ちょく管理手法の利用を義務付けている。EVMで算出した進ちょく率をベースに売り上げと利益を月単位で管理し,採算が悪化しているプロジェクトの早期発見,迅速な対応で赤字の回避につなげるのが狙いである。
EVMとは,プロジェクトで実施すべき作業を細かく分割し,それぞれに定義した予定コスト(単位は金額または工数)に基づいて,プロジェクト全体のスケジュールの遅れやコストの超過を“可視化”する進ちょく管理手法のことだ。
大規模プロジェクトでの納期の遅れやコストの超過は,業績に多大な影響を及ぼし,社会的な信用失墜を招く。どれだけ進ちょくしているのか,プロジェクトの採算性はどうか,といったことを正確かつ迅速に把握することが至上命題になっている。
そこで,このように“失敗が許されない”プロジェクトへのEVM本格導入を決めた,あるいは検討しているITベンダーが急速に増えている。
難しくなる一方の進ちょく管理
EVMに注目が集まる背景には,スケジュールの遅れやコストの超過に直結するリスクがますます多様化している,という事情がある。
以前は,プロジェクト・マネジャーが開発作業を一通り経験済みのことが多く,計画作りや進ちょく管理の際には自分の経験に基づいて判断を下したり,問題を解決したりすることがまだ可能だった。ところが最近では,製品や技術の高度化・専門化が加速している。その結果としてWeb系システムの開発やERPパッケージの導入などでは,プロジェクト・マネジャーの経験が通用しないことも多く,正確な計画を立てたり進ちょくを管理したりすることが難しくなった。プロジェクト開始後も,予期せぬバグの修正やテストなどで工数が膨らみやすい。
また,1つのシステムを導入しようとすると,関連するシステムとの接続やデータ連携,それに伴うセキュリティの確保など,1つのプロジェクトで求められる作業の範囲が,以前より明らかに広くなったこともリスク増大につながっている。そのほかにも様々なリスクがある(図1)。これだけリスクが多様化してくると,経験や勘に頼って正確なスケジュールを立てたり,納期通りにプロジェクトを進めることは非常に難しい。
さらに,単にプロジェクト内部で進ちょくを管理するだけでなく,顧客(発注者)に対して進ちょく状況を詳細に説明することが求められるようになってきた。これがEVMに注目が集まるゆえんだ。
より厳密な管理を可能に
EVMは決して新しいものでも一過性のものでもない。実際,海外ではIT以外の業界も含めて,多くのプロジェクトの進ちょく管理にEVMが使われて効果を上げている。
ではEVMのメリットとは具体的に何だろうか。もちろんEVMは“万能薬”ではないが,うまく使いこなせば,プロジェクトの早い段階でスケジュールの遅れやコストの超過を発見したり,対策を打ったりするのに役立つ。
ここで図2の2つのグラフを見てほしい。「1人のITエンジニアが6日間で計10本のプログラムを作成する」(総工数は6.0人日)という計画に対して,5日目終了時点での進ちょく状況を,2つの手法で比較したものだ。
左側のグラフは「成果物の量」による進ちょく管理である。5日目終了時点までに作成したプログラムは全部で7本。計画では10本なので,進ちょく率は「70%」となる。
これに対して右側に示したのがEVMによる進ちょく管理である。EVMでは「完了した作業の予定コスト(この例では予定工数)」によって進ちょく状況を見る。5日目終了時点までに完了したのは「作業1」と「作業2」であり,これらの予定コストは3.5人日である。総予定コストは6.0人日なので,進ちょく率は「58%」となる。プログラムごとの工数の違いを加味していない前者の手法に比べて,こちらの方がより実態に近い進ちょく状況を表していることは言うまでもない。
ここで,この単純な比較の仕方に違和感を抱いた読者がいるかもしれない。確かにこれまでも,対象が特定の工程や特定の開発チームだけなら,プログラムの本数だけでなく,工数や要員のスキルなどを加味してより正確な進ちょく状況の把握に努めるプロジェクト・マネジャーもいただろう。