プロジェクトの流れ,実践的なマネジメント技法,そして用語。PMBOKには,PMの知識がぎっしりと詰まっている。スコープ・マネジメントとリスク・マネジメントを中心にPMBOKの全体像を見渡す。

 国際標準に基づいたプロジェクトマネジメントの知識を持ち,それを実践することは,今やITエンジニア全員の課題である。そのための有効な手段の1つが,PMBOKを学ぶことだ。

 プロジェクトマネジメントのBOK(知的体系)はいくつかあるが,最も代表的なのが世界最大のプロジェクトマネジメント組織「PMI(Project Management Institute)」が策定した「PMBOK」である。これからプロジェクトマネジメントについて学ぶなら,PMBOKからスタートするのが最も効率が良い。

 PMBOKについて学ぶ際に,まず理解すべきは,その対象が「プロジェクトマネジメントの実践に必要な基礎知識」にフォーカスされていることである(図1)。

図1●PMBOKが取り扱う知識の範囲
図1●PMBOKが取り扱う知識の範囲

 プロジェクトマネジメントを実践するには,ソフトウエア工学やセキュリティなど「適用分野の知識・標準・規制」,財務管理や契約といった「一般的なマネジメントの知識」,リーダーシップや動機付けなどの「人間関係のスキル」,そして会社の組織文化や海外の習慣や文化など「プロジェクト境界の理解」が必要になる。良いプロジェクト・マネジャーの条件はプロジェクトマネジメントと上記知識をバランスよく持っていることである。

 もう1つ知っておいてほしいのは,PMIのPMBOKは,1987年に「プロジェクトマネジメント知識体系」という名称で出版されたあと,1996年,2000年,2004年の3度にわたって改訂されていることである。「96年版」以降は,名称が「A Guide to the Project Management Body of Knowledge」(PMBOK Guide)に変わっている。

 プロジェクトマネジメントに関する知識は奥が深く,必要な知識すべてを1冊の本にまとめることは不可能である。発行元であるPMIは,PMBOKはあくまでプロジェクトマネジメントに必要な知識体系に到達するための「ガイド」だ,ということを明確にしている。実際,PMIはWebサイトで,関連する書籍を多数紹介している。PMBOKより深い知識を得たい場合は,これらを参照することをお薦めする。

PMBOKで認識を共通化

 PMBOKの体系は,プロジェクトマネジメントの枠組みの定義から始まっている。具体的には,プロジェクトには「プロジェクトマネジメント計画書作成」や「品質管理」といったプロセスが合計44あることを明記している。同時に「立ち上げ」「計画」「実行」「監視コントロール」「終結」という5つのプロセス群に分類できることも示している(図2)。

図2●PMBOKにおけるマネジメントプロセスの流れ
図2●PMBOKにおけるマネジメントプロセスの流れ
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 なぜ,これほど細かく分類しているのか。その答えは意外にシンプルだ。要は,各プロセスを定義して体系化すれば,他者とプロジェクトを進めていくうえで共通認識を持てるからである。例えば関係者からプロジェクトの進ちょく状況を聞かれたシーンを考えてみてほしい。PMBOKの知識があれば,「立ち上げが終わる」「実行に入った」などと答えられる。それを聞いた人も,PMBOKを知っていれば,その状況をすぐに理解できるはず。PMBOKを学ぶことの意義の1つは,こうした共通言語を通して,チーム内はもちろん,世界中の人々と共通認識を持てることなのだ。