1990年代後半に始まった保険自由化により,激しい競争を繰り広げている損害保険業界。企業合併を中心に損保会社の再編が進む一方,取り扱い商品も急速に多様化・複雑化している。生保業界と比較しながら,損保の業務や情報システムの基本,最新動向を解説する。

 企業活動や日常生活に予期せぬ危険があふれている現代社会は「リスクの社会」と言われる。こうしたリスクを軽減するための“社会的なシステム”と言えるのが損害保険だ。

 リスクの拡大を反映して損害保険は急速に多様化・複雑化している。この傾向は金融行政の規制緩和によって,さらに拍車がかかった。損保商品の種類は10年前の約350から今や約500以上まで増加。競争力強化を目的とする損保会社同士の合併も進んでいる。

 そこでPart12から3回にわたり,損保会社の主要な業務と情報システムを解説していく。Part12では急速に進む業界再編の動きを紹介してから,損保商品の種類と特徴,損保の販売チャネル,損保会社の基本的な業務の流れを解説する。情報システムについては,Part13~Part14で詳しく紹介する。

合併相次ぐ損保業界

 損保業界は1990年代後半に自由競争に突入した。まず1996年に,それまで認められていなかった生・損保の子会社による相互参入が解禁。続いて1998年には,火災・自動車・傷害といった保険の種類ごとに業界一律だった保険料率(損害保険算定会料率,あるいはカルテル料率と呼ぶ)の使用義務が解かれた。以来,損保各社は経営統合などで生き残りをかける一方,保険料率を独自に設定して利便性の高い保険商品を開発し,顧客獲得・拡大を図ってきた。

 ここで,現在の損保業界がどんな企業で構成されているのかを見ておこう。競争力の弱い国内企業が外資系企業の傘下に入るケースが多かった生保業界と違って,損保業界では国内企業同士の合併が主流となり,ここ数年でほとんどの社名が変わった(図1)。その結果,国内の主要損保会社は,2004年10月に誕生した東京海上日動火災保険をはじめ,損害保険ジャパン,三井住友海上火災保険,日本興亜損害保険,あいおい損害保険,そしてニッセイ同和損害保険を中核とする6つのグループに再編された。

図1●再編成が進む主要損害保険会社の業界地図<br>カッコ内は2005年度における正味収入保険料*1
図1●再編成が進む主要損害保険会社の業界地図
カッコ内は2005年度における正味収入保険料*1
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 このうちニッセイ同和損保は,生損保の相互参入で誕生した損保会社の代表例である。実は,同社を例外として,生保会社が設立した損保子会社のほとんどは販売件数が伸びず,すでに一部は撤退している。一方で,セコム損害保険や日立キャピタル損害保険のように,生保以外の業界から進出する損保が出現した。

 外資系ではAIU保険などの大手のほかに,自動車保険を通信販売するアメリカンホーム保険やチューリッヒ保険などが,1997年以降に相次いで進出してきた。このほかの損保会社としては,損保を対象顧客とする再保険会社(詳しくは後述)がある。

 今後はさらに他業界からの参入が活発になりそうだ。2007年12月までに銀行による保険窓口販売が全面解禁となり,銀行が扱える損保商品の範囲が拡大する。すでにオートバイの自賠責保険を扱っている郵便局が,郵政公社の民営化によって,自動車保険や火災保険も扱う動きが出てきている。さらに電力会社やガス会社が将来,保険に食指を伸ばしてくることも噂されている。

重要性を増す「責任保険」

 損保商品は大きく2つに分類できる(表1)。1つは家庭を取り巻くリスクに対応した個人向け保険,もう1つは事業活動を支える企業向け保険である。

表1●損害保険の主な種類
表1●損害保険の主な種類
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 前者の例としては,住宅・店舗などの火災保険,自動車保険,傷害保険,所得補償保険,レジャー保険などがある。後者は,工場・倉庫などの火災保険,賠償責任保険,労働災害保険,動産総合保険,信用・保証保険,貨物保険,船舶保険などが該当する。日本損害保険協会(損保協会)の調査によると,両者を通じて最も種類が多いのは,各種の自動車保険(自賠責保険を含む)で,損保業界の全保険料収入の63.5%を占める。火災保険(14.1%),傷害保険(8.7%),海上・運送保険(3.2%)がこれに続く。

 リスクの多様化に伴い,特に重要性が増しているのが,個人・企業・団体が事故などを起こして他人に損害を与え,損害賠償責任を負うリスクに対応した各種の「責任保険」だ。自動車保険や自賠責保険をはじめ,航空保険,原子力損害賠償責任保険,労働災害保険,環境汚染賠償責任保険,製造物損害賠償責任保険など,現在では100種類以上ある。

 保険の自由化によって,新しいタイプの損保商品もいくつか登場している。その1つが通販の自動車保険だ。対象年齢や走行距離などを細分化し,それぞれのリスクに応じてきめ細かく保険料率を算定することで既存商品との差異化を図っている。それに対抗する形で東京海上は,契約者が自動車事故で人身障害を被った場合に,示談交渉なしに保険金を支払う「人身傷害特約」を1998年に投入し,業界に衝撃を与えた。

 保険商品は,保険期間が1年以下の「掛捨型」か,保険期間が長期に及ぶ「積立型」か,という観点でも分類できる。もともと掛捨型しか扱っていなかった損保会社は,1960年代から火災保険や傷害保険を中心に,数多くの積立型保険を開発・販売してきた。積極的な営業が奏功し,ピークの1986年度には全損害保険に占める積立型の割合は42.6%に達した。ところがその後,予定利率が低下して,貯蓄商品としての魅力が薄れたことから積立型保険の販売に急ブレーキがかかり,2003年度には14.3%まで低下した。