損保は生保と違って保険商品の数が膨大であり,代理店や銀行など外部機関と連携する業務も多い。そのため,損保業務を支える情報システムは多数のサブシステムから構成され,処理も複雑だ。契約締結,保険料受領,保険金支払いといった業務の流れと,それを支えるシステムを解説する。

 損保会社のシステム化の歴史は古い。1960年代には,大手損保がいち早くメインフレームで損保システムを稼働させている。現在では中核部分を除いて多くのサブシステムがオープン系サーバーで稼働しているが,情報システムが損保業務をしっかり支えていることに変わりはない。

 今回は,まず損保システムの全体像を紹介してから,保険契約の締結,保険料の受領,保険金の支払いといった基幹業務の流れと,それを支えるシステムを解説する。損保会社が代理店や契約者(顧客)と,どのように書類や金銭(保険料や保険金)をやり取りし,その過程で発生する情報を管理するのかを理解してほしい。

4つのシステムで構成

 損保システムは一般に,「保険契約管理」,「顧客インタフェース」,「情報出力管理」,「経営情報管理」という4つのシステムで構成される(図1)。

図1●損保会社が構築・運用している主要な業務システムの構成<br>大手損保会社は保険契約管理システムの中核部分(契約管理やクレーム管理)をメインフレームで稼働させ,資産運用/財務管理,会計/決算などの各サブシステムはオープン系サーバーで稼働させるケースが増えている
図1●損保会社が構築・運用している主要な業務システムの構成
大手損保会社は保険契約管理システムの中核部分(契約管理やクレーム管理)をメインフレームで稼働させ,資産運用/財務管理,会計/決算などの各サブシステムはオープン系サーバーで稼働させるケースが増えている
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 1つめの保険契約管理システムは,損保システムの中核であり,保険契約とそれに伴う入出金,資産運用,会計/決算などを処理する。次の顧客インタフェース・システムは,販売戦略に密接に関係するシステムで,通常は損保会社が開発して代理店に提供している。これについてはPart14で詳しく紹介する。

 3つめの情報出力管理システムは,保険契約管理システムの処理結果に基づいて,顧客や代理店,銀行,損保協会などに提供する帳票を作成するためのシステム。損保で扱う帳票は多種多様なので,帳票出力業務をアウトソーシングしている大手損保もある。最後の経営情報管理システムは,全社や営業店/代理店ごとの営業成績管理・分析,商品/販売チャネルごとの収益管理などを行うシステムだ。最近では,新商品の採算性のシミュレーションや保険料率の検証といった機能を持たせている損保会社も増えている。

契約情報をマスターで一元管理

 上に挙げた4つのシステムのうち,保険契約管理システムは損保業務を支える重要なシステムなので,詳しく説明しよう。

 図1で示したように,保険契約管理システムは7つのサブシステムから成る。このうち損保業務の流れを把握するうえで特に知っておいていただきたいのが「契約管理」と「クレーム管理」だ(クレームは「保険金請求」の意味)。大手損保の場合,大量のバッチ処理を実行するこれら2つのサブシステムはメインフレームで稼働させ,そのほかのサブシステムにはUNIX/Windowsサーバーを使うケースが多い。

 契約管理サブシステムは,契約者(顧客)から代理店経由で受け取った契約申込書や異動承認請求書(住所変更や契約譲渡,解約などの依頼書)の内容を「契約マスター」に登録する機能や,契約によって入金が見込まれる保険料を計上する機能を持つ。契約マスターの最新内容をもとに,近く満期を迎える契約者に継続を勧めるための「更改申込書」を作成する機能も備える。

 契約マスターは契約管理サブシステムの中核となるデータベースである。保険種目(自動車,火災,傷害など)ごとに固有のデータ項目を持つテーブル群と,証券番号や契約者住所,契約者氏名,保険期間,保険料払込方法といった,どの保険種目にも共通のデータ項目を持つテーブルで構成される。通常,保険商品は1つの保険種目に対応しているが,最近では東京海上日動の「超保険」のように,複数の保険種目を統合した商品も登場している。

 損保は生保に比べて保険種目が多く,内容も多様で複雑である。そのため契約マスターは,データ項目の数が多く,契約1件当たりのレコード長も大きい(表1)。保険種目によっては,データ項目数が1000以上,レコード長が2万バイト以上に及ぶ場合もある。

表1●契約マスターの主なデータ項目(例)<br>契約マスターのデータベースは,種目共通のテーブル,および種目ごとのテーブルで構成される。ここに示したもののほかに,動産総合保険,建設工事保険,機械保険,組立保険,所得補償保険,住宅ローン保証保険,信用保険などの種目に関する種目固有項目がある
表1●契約マスターの主なデータ項目(例)
契約マスターのデータベースは,種目共通のテーブル,および種目ごとのテーブルで構成される。ここに示したもののほかに,動産総合保険,建設工事保険,機械保険,組立保険,所得補償保険,住宅ローン保証保険,信用保険などの種目に関する種目固有項目がある
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 契約管理サブシステムを使った業務の流れを説明しよう(図2)。代理店からの契約申込書の集約,保険料の計上と代理店への請求,入金状況の確認と照合,といった一連の業務サイクルが,ほぼ3カ月で一巡する。

図2●保険契約の締結から,保険金の入金までの業務の流れ<br>申込書の集約,保険料の計上と代理店への請求,入金情報の確認と照合,といった業務のサイクルが3カ月で一巡する(図は1~3月の例)
図2●保険契約の締結から,保険金の入金までの業務の流れ
申込書の集約,保険料の計上と代理店への請求,入金情報の確認と照合,といった業務のサイクルが3カ月で一巡する(図は1~3月の例)
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 Part12で述べたように,顧客と保険契約を結ぶのは代理店である。代理店は毎月末までに,顧客に記入してもらった契約申込書を損保会社の営業店に送る。顧客から受け取った保険料は,代理店の精算用口座(代勘口座)で管理する。

 損保会社の本社スタッフは,各営業店から契約申込書を集約し,保険料の誤りなどがないかチェックしたうえで,その内容を契約マスターに入力する。すでに契約は成立済みなので,生保のように契約成立の過程で発生するデータを格納する中間ファイルは必要なく,契約マスターにデータを直接登録するわけだ。

 入力処理が完了したら保険証券や異動承認書を出力し,契約者宛てに送付する。さらに,代理店ごとに全保険種目の月次の計上情報(入金が見込まれる保険料のデータ)を作成し,集計する。