競争が激化する生保業界では,顧客中心の発想による業務とシステムの改革が求められている。そこでPart11は,営業活動や意思決定を支援する情報系システムを中心に解説する。各社は得意の販売チャネルを生かして顧客情報の収集やシステム作りに取り組んでいる。

 金融ビッグバンをきっかけに,生保業界は厳しい競争社会に突入した。これまで護送船団方式の行政に守られてきた国内大手生保の牙城に,外資系や損保系などの新興勢力が攻め込む一方,生保会社の経営基盤に対する不信から業界全体の保有契約件数は減り続けている。

 こうした中で生保各社は,顧客の獲得・維持に重点を置いた業務とシステムの改革に取り組み始めた。生保編の最終回となるPart11では,営業活動を支援する「SFA(Sales Force Automation)」システムや,様々な意思決定を支援する「データ・ウエアハウス」など,“情報系”に分類されるシステム群を中心に解説する。また,Part10では基幹系システムの1つとして取り上げた数理システムは,複雑な計算処理やリスク回避の意思決定にかかわる多様なアプリケーションを含んでおり,“周辺系”としての一面も持ち合わせている。これについても簡単に紹介したい。

SFAに注力する新興生保

 金融自由化の流れの中で,生保業界における商品販売チャネルは急速に多様化している。従来の営業職員や代理店に加え,2007年12月には銀行窓口を通じた保険販売が全面解禁となる予定だ。現在はほとんど行われていないが,今後はインターネットや携帯電話による販売,あるいはコンビニ,生保商品の仲立人(ブローカー)などを通じた販売が,新たなチャネルになると考えられる。実際,アリコジャパンやオリックス生命のように,医療保険の申し込みをインターネットで受け付ける生保も出てきた。

 ただ,販売チャネルが多様化していると言っても,依然として中核は営業職員と代理店である。そこで生保各社は,これらのチャネルによる営業活動をより強化するためのSFAシステムの構築に力を入れている。特に代理店向けのSFAに積極的なのが,ソニー生命やプルデンシャル生命,アリコジャパンといった“カタカナ生保”だ。一方,国内大手生保では,営業職員が使いこなせないという理由で,利用がファイナンシャル・プランナーなど一部に限られているのが実情である。

 生保のSFAシステムは一般に「営業活動支援」,「新契約提案支援」,「既契約管理支援」の3つのアプリケーションで構成される(図1)。これらを営業職員や代理店(多くの場合,個人)が携行するノート・パソコンにインストールし,営業活動のスケジュール管理や日報の作成,客先での提案や各種書類の作成,保険料の試算などに使う。客先で画面を見せ,保障内容や保険料などの条件を変えながら,顧客が納得できる商品を選択したり,申込書を作成できるようにすることで,支社と客先を往復する手間を軽減できる。

図1●営業職員や代理店の顧客折衝業務を支援する「SFAシステム」の主な機能と情報の流れ<br>支社の営業管理システムや本社の顧客情報システムとも密接に連携する
図1●営業職員や代理店の顧客折衝業務を支援する「SFAシステム」の主な機能と情報の流れ
支社の営業管理システムや本社の顧客情報システムとも密接に連携する
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 提案や契約に必要な書類作成用のひな形としては,ライフサイクル表(顧客の長期的な収支見込みのシミュレーション),保険設計書,保険申込書などが用意されている。営業職員や代理店はこれらを使い,顧客から得た個人情報を入力したり,保険料を試算して書類を作成する。個人情報のほか,顧客ごとの訪問履歴や書類作成履歴,トラブル履歴といった情報もそれぞれのパソコンで管理する。

 一部の生保は,SFAシステムの新たなアプリケーションとして,金融や税務の知識を顧客に提供したり,保険金の運用をアドバイスするための支援機能を検討している。さらに,営業日報の情報に基づいて支社から営業職員に行動を指示する機能や,成功事例の情報を共有するための機能の開発を検討している生保もある。