Part9から3回にわたり,個人生命保険を中心とした生命保険の業務と情報システムについて解説する。今回はオーバーオールな業界知識や生保商品,基幹である個人生命保険の業務プロセスを取り上げる。一見,複雑に思える生保の商品だが,基本を理解すればそう難しくないことが分かるはずだ。

 「生保危機」を巡る議論が盛んになっている。週刊誌や新聞に,生命保険に関連する記事が載らない日はないと言えるほどだ。発端は1997年に起きた日産生命の破綻。以来,国内生保7社が破綻し,2社が外資系生保会社の傘下に入った。

 直近の話題では保険業法改正案がある。2003年8月に国会を通過し,逆ザヤ解消のために「予定利率」(後述)を中途で引き下げることが可能となった。だが,これとても「実際に予定利率を引き下げると危ない生保と思われるため,生保は引き下げに動けない。逆ザヤに耐えて景気回復を待つしかない」などと報じるマスコミが多い。

 このような報道に接していると「生保に明日はない」と感じがちだが,それは正しい見方とは言えない。個人のリスクをカバーするための保険は,社会的に大きな存在意義がある。また生保各社は契約者のニーズを満たすべく,コストダウンや業務の抜本的見直しに動いている。当然,情報システム再構築の需要,既存システムの見直しへの需要などもある。

 そこでPart9から3回にわたり,生保業界の業務知識やシステム動向を解説する。今回は,大まかな業界構造や,複雑で分かりにくい保険商品の仕組み,契約の流れに焦点を当てよう。

守る国内生保,攻める外資系

 一口に生保業界といっても,業界を構成するプレイヤーは様々だ(図1)。保有資産や契約件数の面で大きな存在感を維持しているのが,日本生命を筆頭とする国内生保である。

図1●生命保険会社の分類と主な企業<br>各社の総資産および個人保険(個人年金含む)保有契約件数(2005年3月時点)を示した
図1●生命保険会社の分類と主な企業
各社の総資産および個人保険(個人年金含む)保有契約件数(2005年3月時点)を示した
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 しかし,景気低迷に伴って個人が保険契約を見直す動きが顕在化し,新規契約を取りにくくなっているのはもちろん,解約も増加している。その存在感は今も大きいが,景気のいい時期に獲得した保険の逆ざやに苦しんでいるのも,これらの企業である。

 一方,「ガン保険」のような特定疾病の保険や,個人のライフスタイルに合わせて設計した合理的な保険商品を武器にするのが,外資系や国内の新興保険会社だ。これらが販売する保険は保険料とカバーできるリスクの関係の透明性が高いため,確実に新規契約者(乗り換えを含む)を獲得。存在感を高めている。

 また生命保険と損害保険の垣根が撤廃されたのを機に,新規参入した損保系もある。損保で築いた顧客ベースを基に契約件数を急進させると見られていたが,現実にはそうなっておらず,規模的にはまだまだ小さい。

 このほか,それほど目立たないが,実は世界一の資産規模と契約件数を誇る日本郵政公社(主力商品は郵便局が販売する「簡易保険」)や,大手生保並みの規模を持つ農協系のJA共済連もある。郵政民営化に伴い,2007年10月には簡易保険は郵便保険会社として金融庁傘下に入る。図には掲載していないが,法的根拠を持たず,安い保険料(掛け金)を武器に加入者を増やしてきた「無認可共済」も少額短期保険業者として2008年4月には金融庁の管轄下に入る。

 このように生保業界は,過去5~6年間で大きく様変わりした。現在は,生き残りをかけた厳しい競争が展開されているのである。

生保商品の基本を押さえる

 次に生命保険の商品を見てみよう。その分類の仕方には種々あるが,ここでは情報システムの分類に沿った形で説明する。保険商品は,個人を対象にした個人生命保険と,会社・官公庁などの職域団体・同業者団体が一括加入する団体生命保険に分けられる。個人生命保険には,支払われる保険金が一定の定額保険と,運用成果によって保険金の額が変わる変額保険がある。定額保険には(1)定期保険,(2)終身保険,(3)個人年金保険,(4)養老保険,(5)医療保険,(6)特定疾病保険,(7)介護保険などがある。

 このうち(1)定期保険と(2)終身保険は死亡保険とも言われ,保険の対象になっている人(被保険者という)が死亡した場合に,保険金が支払われる。定期保険は保障期間が限定され,例えば65歳までに死亡した時に保険金が支払われるのに対し,終身保険は保障期間が限定されていない。

 また,(4)の養老保険は被保険者が保障期間中に死亡した場合も,期間満了まで生存した場合も同額の保険金が支払われる。貯蓄性の高い保険の代表格だ。

「生存リスク」に備える保険

 このように,定期,終身,養老の3つの保険は「死亡リスク」にかかわる保険だが,最近の高齢化傾向に伴って「生存リスク」に備える保険が注目されている。(3)の個人年金保険は生存を条件に保険金が支払われる。(5)の医療保険は,ケガや疾病が原因で入院・通院・手術をした場合に給付金が支払われる保険。その一種で,特定の疾病,例えば「ガン」や「三大疾病(成人病)」を重点的に保障する(6)特定疾病保険もあり,特にアメリカン・ファミリー保険がパイオニアとして有名だ。さらに公的介護保険を補完する商品として(7)介護保険が挙げられる。近年の高齢化・核家族化の進展に伴い今後の成長が望める分野だが,法律の改正により公的介護サービスの内容が変化するので注意しておく必要がある。

 保険商品の概略を,ご理解頂けただろうか。国内生保が販売している保険は,会社ごとにネーミングが異なり種類も多いので複雑という印象があるが,基本的には(1)~(4)の組み合わせで構成されている。

 一方の団体生命保険には,団体定期保険や団体信用保険,企業年金保険などがある。これらの概要は個人保険から類推して頂けるはずなので,ここでは詳しく触れない。