カード会社は,提携先の力を借りて効率的に会員を獲得できる「提携カード」に注力している。その一方で自社名義のカードでは,金利をはじめカード本来の商品性に磨きをかけ始めた。DBM(データベース・マーケティング)システムによる利用促進の取り組みも本格化する。

 これまで見てきたように,カード会社の利益の源泉はショッピングとキャッシングの手数料であり,その多寡は「会員数×利用金額」で決まる。一方でカード事業は,高度な情報システムと多数の人員を要する“装置産業”の性格を持つため,スケールメリットが効く。

 従って,1人でも多くの会員を獲得すれば,経費率が低下する。結果として利益の拡大と利益率の向上につながるのだ。

 では,カード会社は会員をどうやって獲得しているのだろうか? 今回はこの疑問点を出発点に,まずカードの発行形態と会員獲得の方法を分類して整理する。そのうえで,商品開発や顧客に対するカードの利用促進といったマーケティング業務と,それを支える情報システムについて解説しよう。

2種類のカード発行形態

 Part5で述べたように,一口にカード会社といっても,母体企業の業種によって様々な系列に分類できる。読者の中には,UCカードや日本信販といった,銀行系や信販系の大手カード会社が発行するカードよりも,全日空の「ANAカード」や新日本石油の「ENEOSカード」といった一般企業のブランドを冠したカードの方が身近に感じる,という方もいるだろう。実は後者のカードも,発行の主体は前者のようなカード会社(ANAカードの場合はJCBや三井住友カード,ENEOSカードの場合はUFJニコス)なのである。

 これからも分かるように,クレジットカードの発行形態は2つある。1つは,カード会社が自社の名前を付け,自社のカードとして発行する形態だ。このようなカードを「プロパーカード」と呼ぶ。もう1つは,カード会社が一般企業と提携し,その“裏方”として提携先のブランドを冠したカードを発行する形態である。これを「提携カード」と呼ぶ。

 プロパーカードと提携カードの本質的な違いは「誰が会員を獲得するか」にある(図1)。

図1●会員獲得の主体に注目して分類した,2種類のカード発行形態<br>プロパーカードではカード会社が,提携カードでは提携先企業が,会員獲得の主体となる。カード発行や債権保有,貸し倒れリスクの負担,カード運営のシステム構築は,いずれもカード会社が主体となる
図1●会員獲得の主体に注目して分類した,2種類のカード発行形態
プロパーカードではカード会社が,提携カードでは提携先企業が,会員獲得の主体となる。カード発行や債権保有,貸し倒れリスクの負担,カード運営のシステム構築は,いずれもカード会社が主体となる
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 プロパーカードでは,クレジットカードを発行するカード会社が自ら会員を獲得する。ただし,会員獲得のベースになるような顧客基盤を持っているカード会社は少ない。そのため,例えば銀行系カード会社の場合は母体銀行の店舗が,流通系カード会社の場合は親会社の小売店舗が,それぞれ会員獲得の場となる。

 一方,提携カードでは,カード会社の提携先である一般企業が,カードに付帯するサービス(例えばANAカードの場合はマイレージサービス)をアピールすることによって,会員を獲得する。一般企業にとっては提携カードを,顧客管理を目的とする“IDカード”として活用できるのに加え,カードの発行・管理やそれに伴うシステムの維持管理コストを,すべてカード会社に負担してもらえるメリットがある。一方,カード会社は,著名な企業が自社顧客に積極的にカードを売り込んでくれるため,限られたコストで多数の会員を獲得できる。このように提携カードは,一般企業とカード会社がWin-Winの関係を築ける“打ち出の小槌”なのである。

磁気ストライプに情報を格納

 提携カードについて,もう少し詳しく説明しよう。

 提携カードの表面に記録する主な情報を図2に示した。カード上部の磁気ストライプ(通常は印刷が施されているため見えない)には,オンライン決済や金融機関のCD/ATMでのキャッシングなどに必要な情報を格納している。カード会社コード,会員番号,有効期限のほか,カード会社が提携先企業を識別するための「提携先コード」,および,提携先企業が自らの顧客管理のために用いる専用の「会員ID」などである。

図2●「提携カード」の一般的な仕様(例)<br>カード表面に記録する主な情報を示した
図2●「提携カード」の一般的な仕様(例)
カード表面に記録する主な情報を示した
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 提携先企業は,POSレジや専用のカード読み取り機などの端末で磁気ストライプの情報を読み取り,どの顧客が自社の商品やサービスを購入したのかを把握できる。提携先企業によっては,カード表面に会員IDをエンボス(打刻)することで,従業員が端末で調べなくても一目で会員IDを認識できるようにしている。

 提携カードに付帯するサービスは提携先企業によって異なる。カード会社は提携先コードに基づいて,その企業に固有の要件(利用金額ごとに付与するポイント数など)に応じたサービスを,その企業の会員に提供する。例えば,利用明細書の印字内容やポイント付与率を変えるように,システムで制御している。

 ここまでプロパーカードと提携カードについて説明してきたが,両方の特徴を併せ持っているのが「JALカード」である。JALカードは,日本航空の支店や空港カウンター,系列ホテルといったJALグループの店舗・施設では,JALカード(日本航空のグループ企業)が発行するプロパーカードとして機能するが,一般の百貨店やレストランなどでは,JCBやDCカードとの提携カードとして機能する。このように,利用場所によって異なる発行形態のカードとして機能するものを「スイッチカード」と呼ぶ。

 スイッチカードは一時期,小売業を中心に広まったが,カード会社と提携先企業がそれぞれ会員へ請求書を送付し,問い合わせ窓口も別々に用意する,という具合に2重のコスト負担が発生する。会員にとっては,カード会社とのやり取りが二度手間になったり,どちらの会社に問い合わせればよいか分からない,といった不便さが生じ,結果としてサービスの品質低下につながりかねない。こうしたことがネックとなり,次第に少数派になってきた。