カード事業では,会員の支払い延滞や不正利用などのリスクに対処することが極めて重要だ。そこでカード会社はリスク軽減と収益拡大を両立するべく「審査」業務の強化に注力している。入会応諾の判断や不正利用の検知など,審査業務の流れとシステム化の取り組みを解説する。

 もし,あなたの手元にカード会社から送られてきた利用明細書があれば,ぜひ手にとって見てほしい。「利用限度額」あるいは「利用可能枠」という項目に,少なくとも数十万円,人によっては100万円を超える金額が記載されているはずだ。

 Part5で述べたように,カード会社のビジネスはショッピングにせよキャッシングにせよ,一度も対面すらしたことがない会員に対して,何十万円もの金額の利用を認めることで成り立っている。会員は利用のたびに審査を受けることもなく,いつでも好きな目的のためにカードを使うことが許される。カード会社はいったいどうやって,そのようなハイリスクに対処しているのだろうか。

 読者のなかには「少しでも延滞する可能性のある顧客はできるだけ入会を断り,会員にはできるだけ低い利用限度額を設定すればよいのではないか?」と考える方もいるだろう。しかし,実際にはそれほど単純ではない。入会を拒否された顧客は二度とその会社のカードを持とうとしないだろうし,頻繁に出張する会社員が10万円程度の利用限度額しか認められなければ,おそらく別のカードに入会しようとするはずだ。仮に延滞のリスクを避けて富裕層だけをターゲットにすれば,カード会社にとって最大の収益源であるキャッシングの利用が見込めなくなる。

 従ってカード会社が収益増加を図るには,不必要なリスクをできるだけ排除しながら,1人でも多くの会員に,少しでも多くの利用限度額を与えることが必要だ。すなわち,リスク(=貸倒れ確率)を極小化すると同時に,会員1人ひとりからのリターン(=期待収益)を極大化することが求められる。

 今回は,こうした“攻め”と“守り”を両立するために難しい判断を重ねる「審査」業務を取り上げる。審査業務は,各カード会社の知恵と経験を結集させた高度な情報システムの活躍する場でもある。

入会審査の自動化が進む

 審査業務には,入会前の「入会審査」と入会後の「途上審査」がある。カード会社にとって特に重要なのが「入会審査」だ。

 入会審査は,豊富な経験に基づく高度な判断が要求される業務であると同時に,多数の人員を要する労働集約的な業務でもある。大手カード会社の場合,全国1~2カ所の事務センターで審査を行うのが一般的だが,各センターには100人以上の専任担当者を配置している。

 かつては,これらの担当者やその上司が入会申込書そのものを回覧していく形で入会審査を行っていた。しかし現在では,グループウエアの機能を利用して審査業務のワークフローを管理する「入会審査システム」を導入し,各担当者がパソコンの画面を見ながら,担当する審査案件を処理する形へと様変わりした。これにより,案件の難易度によって適切なスキルを持つ担当者に振り分けることができるのに加え,顧客から「カードが届かない」といった問い合わせを受けたときに,どの段階で滞留しているかを即座に把握する,といった工程管理も容易になった。

 さらに最近では,入会可否を判定するロジックを入会審査システムに組み込む“自動審査”の動きが広がっている。既に導入済みのカード会社は,入会申込の半数以上を,システムによってわずか数分間で処理するなど,業務効率を大幅に改善している。一部の先進的なカード会社は,入会申込用のWebサイトを開設して顧客自身に必要事項を入力してもらい,入会審査からカード発券までの全工程を完全自動化する仕組みを実現している。

多様な外部信用情報を収集

 入会審査の業務は,(1)審査情報の取得,(2)データの名寄せ,(3)入会の応諾判定,(4)利用限度額の算定,(5)意思・在籍確認という5つのステップで構成される(図1)。この順に従い,業務の具体的な内容を解説していこう。

図1●入会審査業務の流れと主要システムとの関係<br>「入会審査システム」では原則として, 5つのステップの業務を自動的に実行するが,審査担当者による確認作業が必要になることも多い
図1●入会審査業務の流れと主要システムとの関係
「入会審査システム」では原則として, 5つのステップの業務を自動的に実行するが,審査担当者による確認作業が必要になることも多い
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 「審査情報の取得」ではまず,顧客が入会申込用紙に記入した内容(属性情報)のすべてを,イメージ・スキャンやパンチ入力によって,入会審査システムに登録する。次に,氏名や生年月日などの個人情報に基づいて,外部信用情報機関および自社のデータベースを照会し,当該顧客の信用にかかわる情報やカード利用実績を照会する。カード会社はこれらの情報を組み合わせて多角的に検討し,入会を認めるかどうか判断する。

 カード会社が加盟する主な外部信用情報機関を表1にまとめた。これらの機関が保有するデータベースは一般に“ブラックリスト”として知られるが,実際には“ブラックリスト”なるものは存在しない。外部信用情報機関は「照会情報」,「クレジット情報」,「独自収集情報」という3つのカテゴリの情報をデータベースで管理している。

表1●カード会社が加盟する主な外部信用情報機関<sup>*4</sup>
表1●カード会社が加盟する主な外部信用情報機関*4
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 このうち「クレジット情報」には,個人の延滞や破産に関する情報も含まれているが,それは一部に過ぎない。そのほかにも,各種カードへの「入会実績」,カードを使ったキャッシングなどの「利用情報」,キャッシングやリボ払い/分割払いに関する直近の「残高情報」,ローンの支払い履歴や完済実績などの「支払情報」といった,いわゆる“ホワイト情報”も登録されており,審査では同じくらい重要な情報として扱う。すなわち,外部信用情報は延滞・破産の経験者を排除するためだけではなく,入会申込者の現時点での借入残高を把握したり,ローンの支払いを遅れずに完済した実績があるといったプラス面の評価にも使われるのだ。