カード大国である日本では,発行カードは2億6000万枚,取引額は年間34兆円に達する。銀行系や信販系に加え,流通・製造・鉄道・航空など,異業種からのカード事業参入も活発だ。便利なカード取引を実現するための,基本的な業務の仕組みとシステムの概要を解説する。

 あなたの財布の中には,何枚のクレジットカードが入っているだろうか? JCBやVISAといった海外でも通用するカード,百貨店やスーパーのポイント機能付きカード,航空会社のマイレージ機能付きカードなど,何枚ものカードを使い分けている読者も多いだろう。

 わが国におけるクレジットカードの歴史は,それほど長くない。日本で唯一,国際ブランド(後述)を保有するカード会社であり,日本最大の会員数(2005年度末時点で5770万人)を誇るJCBが1961年に設立されてから,まだ40年あまりが経過したに過ぎない。

 しかし,カード会社同士の激しい会員獲得競争もあって,今やカード発行総枚数は2億8900万枚,成人1人当たりの保有枚数は2.8枚(いずれも2005年度末時点)を数える,世界有数のカード大国へと発展した。カード取引による取扱高も順調に伸び続け,業界全体で年間35兆円(同)に達している。

 日常生活にすっかり浸透した感のあるクレジットカードだが,小さなプラスチックのカードを提示するだけで,世界中どこでも買い物やキャッシングができる仕組みをきちんと理解している読者は,意外に少ないのではないだろうか。そこでPart5から4回にわたり,カード取引を支える業務の仕組みや情報システムの概要,新しい情報技術がカード業界に与える影響などについて解説していきたい。なお,本講座では特に断りのない限り,「カード」はクレジットカードを意味するものとする。

決済手段を超えて広がる用途

 まずクレジット業界全体を概観しよう。日本でカード事業を展開する主なカード会社を,母体企業の系列ごとに分類して表1にまとめた。

表1●主なクレジットカード会社の概要
表1●主なクレジットカード会社の概要
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 カード業界は当初,銀行系と信販系という2つの業界の企業群を中心にすみ分けられていた。銀行系カード会社は母体行の銀行口座に付随する決済サービスとして,信販会社は個品割賦(商品購入ごとに契約する分割払い)に代替する与信サービスとして,それぞれカードを位置づけ,普及に努めてきた。

 1990年代に入ると,流通系カード会社が“年会費無料”やポイントサービスを売り物に小売店頭での会員獲得に乗り出し,次第にシェアを伸ばした。近年では,電気・ガスをはじめとする公共料金の支払いや,高速道路や病院の料金支払い,さらには税金の納付にまで,カードの利用範囲は急速に拡大しつつある。

 こうした状況を背景に,日本航空,JR東日本,トヨタ自動車,イトーヨーカ堂といった,様々な業界を代表する企業も続々とカード事業に参入した。最近では,インターネット・ショッピングとのシナジー効果を狙うヤフーや楽天,「おサイフケータイ」を標榜するNTTドコモまでが本格参入を表明するなど,その勢いは止まりそうにない。

オンラインで取引を承認

 このように,カード会社の業態は様々だが,クレジットカードによる取引の基本的な仕組みは同じである。図1を見ながら,その仕組みを説明しよう。

図1●カード取引の流れ(ショッピングの場合)と,クレジットカード会社の基本的な業務<br>会員へのカード発行にかかわる「イシュア(Issuer)業務」と,加盟店の開拓・管理にかかわる「アクワイアラー(Acquirer)業務」がある
図1●カード取引の流れ(ショッピングの場合)と,クレジットカード会社の基本的な業務
会員へのカード発行にかかわる「イシュア(Issuer)業務」と,加盟店の開拓・管理にかかわる「アクワイアラー(Acquirer)業務」がある
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 あなたがカード会社の「会員」となり,「加盟店」の1つである書店で買い物をし,カードで代金を支払ったとしよう。このとき書店はあなたに対して,商品の代金に相当する「債権」を保有することになる(あなたは書店に対して「債務」を負う)。

 カードによる決済は,書店があなたに対する債権を,カード会社に譲渡することで可能になる。すなわち「債権者」の移転により,あなたが買った本の代金は,「債権」の対価としてカード会社から書店に支払われる。同時にカード会社は,「債務者」であるあなたに対して,支払いを直接請求できるようになる。

 もちろん,カード会社は加盟店から債権を無条件で買い取るわけではない。あなたがカードで買い物をした場面を思い浮かべてほしい。店頭のレジでカードを差し出したときに,店員がそのカードを小さな端末に通し,しばらくすると端末からレシートのような伝票が出力されるのを目にしたことがあるだろう。

 実はこのわずかな時間に,あなたのカードが使われようとしていることがオンラインでカード会社に伝えられ,カード会社のシステムで「そのカードは本当に自社が発行した有効なものか」,「あなたの信用度に基づいてあらかじめ設定しておいた利用限度額の範囲内か」といったことを総合的に判断し,債権買い取りの可否を加盟店へ通知しているのだ。

 この買い取り承認の通知を「オーソリゼーション」と呼ぶ。いったん買い取りが承認されれば,最後にあなたが伝票にサインをすることでカード決済は完了する。以上がカード取引の基本的な仕組みである。

 たとえあなたが世界中どこのお店にいようと,この仕組みは同じだ。一見単純に思えるカードによる買い物が,きわめて高度なシステムと世界中に張り巡らされたネットワークによって支えられていることがイメージできただろうか。