今回はホールセール・ビジネスにおける情報システムの現状と将来像をテーマにする。中でも,証券会社最大のテーマである「STP」(業務の一貫処理)について詳しく解説したい。

 「証券会社編」の最終回であるPart4は,証券会社のホールセール・ビジネスを支えるシステムについて解説しよう。ホールセール・システムにおいて,数年をかけ,STP(Straight Through Processing)の実現が進められた。日本語では「業務の一貫処理」と訳される。

 簡単に言えば,Part3で説明したホールセール業務に必要な個々の処理をできるだけ電子化することで,システムによる一貫処理を可能にすることを指す。

 これまでに述べてきたように証券会社の業務処理は,顧客から注文を受けることからスタートして様々なプロセスを経る。受け付けた注文内容を取引所へ発注する,取引所からの「出来」を発注内容と照合すると同時に顧客へ通知する,顧客へ「約定連絡」を送る,約定内容を約定系システムや決済系システムへ入力する――などだ。

 以前は,これらの大半は,電話やファクシミリで情報を伝達したり,システムから出力した紙を見ながら別のシステムに手入力したりといった“アナログ”で処理していた。これではミスを生みやすく,効率も悪いのは言うまでもない。

 そこで業務プロセスの大半をシステムで自動処理し,複数システムにまたがる場合は,システム間を電子的に接続する。社外と情報を交換する場合は,プロトコルを決めて,プロトコルに準拠したメッセージを送受信する――といったことが必要になる。これらを,証券会社や運用会社などホールセールにかかわるすべての参加者を巻き込んで実現する。これこそが,STPなのである。

STPによる決済リスクの軽減

 Part3で,ホールセールの株式取引では,証券は証券保管振替機構(保振)の帳簿上(口座間)の振替によって,一方の資金は日銀や市中銀行の口座間振替によって決済することを説明した。この一連の処理の間に取引相手(顧客)が何らかのトラブルに巻き込まれる可能性がある。

 最悪の場合は倒産したり,債務不履行に陥ったりする(これを信用リスクと言う)。そこまでいかなくとも,何らかの理由で決済日に有価証券または資金を用意できなくなるかもしれない(これを流動性リスクと呼ぶ)。

 ホールセールでは,ある取引の「買い手」は,別の取引の「売り手」になることが多い。その中には,有価証券を売って得られる資金を購入資金にしようと考えている顧客もいる。万一,その顧客が「売り手」になっている取引の決済ができないと,同じ顧客が「買い手」になっている決済もできないという連鎖反応が発生する可能性がある(これをシステミックリスクと呼ぶ)。

 こうした決済に関する様々なリスクは,取引金額が同じなら取引日から決済日までの期間が長いほど大きくなる。そこで決済リスクを小さくするために,特に大口の決済となる証券会社など業者間の決済などでは,清算機関を通じた決済によるリスク軽減が実現された。

 加えて,定型業務はコンピュータに任せ,人間はエラー処理など非定型業務を担当するといったシステム側の改革,つまりSTPを実現することも必須になる。

 一般には,STPを実現するために,証券会社が必要なシステムを自前で整備しようとすると,1社当たり数十億~100億円を投資する必要があると言われている。確かに膨大な投資だが,証券会社や運用会社など,証券取引の参加者にとっては,先述したリスクの軽減という投資額に見合う経済的メリットがあると考えられている。

 リスク低減を実現するのに欠かせないSTPとはどのようなものなのか。次に詳しく検討していくことにしよう。