ユーザーが必要とするアプリケーション機能をネットワークを通じて提供するASPは1998年~1999年に登場した。当初はその合理性と経済性から中小企業を中心に爆発的に普及すると期待されていたが,思った以上の普及は見られなかった。しかし,登場から7~8年が経過した今,ASPはSaaSと名前を変えて,再び脚光を浴びている。Part1では,ASPの定義や仕組み,謡われていたメリットを解説するとともに,急速にブームが冷めていった背景を明らかにする。
まずはASPの定義から確認しておこう。業界団体のASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン(ASPIC Japan)が発行している「ASP白書2005」では,ASPは以下のように定義されている。
ASPの定義=『特定及び不特定ユーザーが必要とするシステム機能を,ネットワークを通じて提供するサービス,あるいは,そうしたサービスを提供するビジネスモデル』
ASPを事業者とせずに,サービス,あるいはビジネスモデルとしている点に,やや違和感を覚えるかもしれない。なぜなら,ASPのPはProvider(供給者)のPなので,サービスを提供する事業者を指す,と考えるのが自然であり,実際,以前はそのように定義されていた。しかし,ASPという言葉が広く浸透するにつれ,その意味するところは,提供するサービスやそのビジネスモデルをも含む包括的な概念へと進化している。
なお,上の定義では触れられていないが,ASPの特徴の一つに料金体系がある。ソフトウエアの使用を開始する前にライセンス料を支払わなければならないパッケージ・ソフトウエアと異なり,多くのASPは月ごとに料金を支払う月額固定料金を採用している。一方,基幹業務システムのASPなどでは,トランザクション量などサービスの実際の使用量をベースとした料金体系(従量制課金)を採用するケースもある。ちなみに,現在のSaaSと呼ばれるサービスでは,一般的に1ユーザー当たりの月額料金が決められていて,ユーザー数に応じて料金が決まるケースが多い。
ASPの仕組み
ASPの定義をもう少し掘り下げて,ASPの仕組みを解説しよう。
上の定義では,「ユーザーが必要とするシステム機能をネットワークを通じて提供する」とあるが,この「システム機能」は,ASP事業者が管理するデータセンター内に設置されたサーバー(Webサーバー,アプリケーション・サーバー,データベース・サーバー)上でアプリケーションが実行されることによって提供される。
ユーザーはインターネット経由で,Webブラウザなどを通じて,サーバーにインストールされたアプリケーション・ソフトを利用するという形態になる(図1)。
もちろん,アプリケーションおよび顧客から預かったデータを保管し,管理運用を行うデータセンターには,堅牢性や高度なセキュリティが求められる。このため,空調設備や各種防災設備(耐震構造,無停電電源装置など),高度なセキュリティ管理(IDカードによる入退室管理,24時間監視など)のシステムが導入されている。
データセンターには,ASP事業者が自ら所有して管理する場合と,アウトソースする場合がある。一般的には,自社で高額な大容量回線を維持したり,ネットワーク管理の専門家を雇うよりも,専門のデータセンター事業者にアウトソースした方が,自社の中核業務に専念することができるため,アウトソースする場合が多い。なお,アプリケーション・ソフトのメンテナンス(パッチ当てなど)やバージョンアップ作業はASP事業者側の責任において行われる。
ASPのメリット
このようなASPの仕組みから分かるように,ASPを利用するメリットには以下のようなものがある。
(1)コスト削減
ユーザーにとっては,コスト面での利点が多い。Webブラウザさえあれば,ソフトウエアを利用できるため,特別なハードウエアやソフトウエアを購入する必要も無く,また月ごとに利用料を支払えばよいため,ソフトウエアを利用する前に,ライセンス料や導入費用などのコストを負担しなくてもよい。
(2)運用管理作業をASP事業者側に一任できる
サーバーなどハードウエアの保守作業やソフトウエアのバージョンアップ作業は,すべてASP事業者が実施する。このため,自社内に設置したサーバーにパッケージ・ソフトウエアをインストールして利用する場合のようにソフトウエアの維持管理のために社内リソースを割く必要がない。この点はIT要員不足に悩む中小企業にとっては非常に魅力的な点である。
(3)導入の容易さ,迅速性
ASPでは,自社でシステムを構築する場合に比べて,ハードウエアの調達,環境設定,ソフトウエアの導入,運用計画の策定などの作業が不要となるため,一般的に,数日~数週間,複雑なカスタマイズやアプリケーション連携を要する場合でも,2~3カ月程度でサービスの利用を開始することが可能である。