一般に「Linux」と言った場合には,Linuxディストリビューションを指すことが多いようです。Linuxディストリビューションとは何かを説明します。

 これまでLinuxは「OS」であると説明してきました。しかし,それは正確ではありません。というのもLinuxとは,OSの中核部分である「カーネル」部分を指す名称だからです。この意味でのLinuxは,http://www.kernel.org/で配布されています。

LinuxはOSの中の「カーネル」の名称

 カーネルはメモリー管理やプロセス管理などを実施する重要なOSの部品ですが,エンジンだけでは車が走行できないように,カーネルだけではOSとしての機能を提供できません。ユーザーが入力したコマンドを解釈して実行する「シェル」や,GUI環境を提供する「X Window System」,システム管理コマンドやライブラリ,フォントなどのデータ等々,実にさまざまな部品と組み合わせて初めてOSとして利用できます。

 ところが,OS部品を集め,機能するように組み合わせる作業は手間がかかる上に難しい作業です。誰にでもできるというものではありません。そこで,Linuxと他のOS部品を組み合わせてOSの形にし,有償もしくは無償で配布する人が現れてきました。このような人を「ディストリビュータ」(配布者),配布されるOSを「ディストリビューション」(配布物)と呼びます。

 一般に「Linux」と言った場合には,このディストリビューションを指すことが多いようです。

多様なディストリビューション

 Linuxディストリビューションには数多くの種類があり,それぞれ,ソフトウエアの組み合わせ方や設定方法などが異なります。

 例えばデスクトップ向けのディストリビューションは,WindowsのようなGUI環境やグラフィカルなインストーラを備えています(写真1)。CD-ROMやDVD-ROMで配布され,多数のソフトウエアが標準提供されるのが普通です。

写真1●WindowsのようなGUI環境を備えるディストリビューション<br>写真は「Fedora Core 6」のデスクトップ画面です。ほとんどの操作をGUIで実施できます。
写真1●WindowsのようなGUI環境を備えるディストリビューション
写真は「Fedora Core 6」のデスクトップ画面です。ほとんどの操作をGUIで実施できます。
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 一方,ルーター構築用やファイアウオール構築用など特定用途の小さなディストリビューションもあります。必要最小限のソフトウエアだけを備え,フロッピ・ディスクだけでシステムを起動可能なものも珍しくありません。

 「パッケージ管理システム」の有無や種類による違いもあります。パッケージ管理システムとは,ソフトウエアの導入や更新を容易にする仕組みです(写真2)。最近のものは,大部分がパッケージ管理システムを採用しています。

写真2●使いやすいインストーラ<br>ディストリビューションによっては、非常に使いやすいインストーラが提供されます。写真は「Fedora Core 6」のインストーラです。
写真2●使いやすいインストーラ
ディストリビューションによっては、非常に使いやすいインストーラが提供されます。写真は「Fedora Core 6」のインストーラです。
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 有償ディストリビューションも存在します。サーバー向けのものが多く,信頼性を向上させたり,サポート・サービスを提供するなどの違いがあります。

 日本国内でよく利用される主なディストリビューションを表3に挙げました。

表3●日本国内で利用される主なディストリビューション
表3●日本国内で利用される主なディストリビューション
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他のフリーUNIXも存在

 Linuxの開発と並行して,他のフリーなUNIX互換OSも開発されていました。

 1992年2月にはLynne Jolitz氏とWilliam Jolitz氏(両氏は夫妻)の手により「386BSD」が公開されています。これは,カルフォルニア大学バークレイ校で開発された「BSD UNIX」に基づいたフリーUNIXです。

 BSD UNIXはAT&T社のUNIXをベースにさまざまな機能を追加したUNIXです。AT&T社のソース・コードを含むため,利用に際してはAT&T社からライセンスを受ける必要がありました。しかし次第にAT&T社のコードは減らされていき,1991年にAT&T社のコードを含まず自由に配布できる「4.3BSD Net/2」というバージョンが公開されます。

 4.3BSD Net/2にはOS機能の一部が欠けていましたが,Jolitz夫妻が欠けている機能を補ってPC AT互換機に移植します。これが386BSDです。Linuxと違いBSD UNIXのコードを基にしているため,当初から品質が高く,機能も豊富でした。そのため人気が高く,広く利用されました。しかし1992年7月に公開されたバージョン0.1以降,386BSDの開発は滞り,バグなどが放置されたままになってしまいます。そこでユーザーたちが独自に改良を加えた派生品を作り始めました。1993年5月には「NetBSD」が,1993年12月には「FreeBSD」が公開されます。以後は,この2つを中心に開発が進んでいきます。

 ただ不幸なことに,4.3BSD Net/2とその後継版の4.4BSD,そしてそれらの派生品にはライセンスをめぐる訴訟が起きます。裁判の結果,ライセンス上の問題が存在し,公開を停止するという合意で和解が成立します。和解条件として,問題部分のほかのコードの配布は自由に認められたため,カルフォルニア大学バークレイ校は1994年に「4.4BSD-Lite」を開発して配布します。NetBSDとFreeBSDも一時開発を中止し,4.4BSD-Liteをベースに書き直す作業を実施しています。

 1994年というと,Linuxではバージョン1.0が公開された頃です。大規模用途にこそ力不足でしたが,機能も安定性も通常の利用にはそこそこ耐えられるレベルになっていました。訴訟を嫌ったユーザーや企業がLinuxに移行したことを,Linux普及の一因として挙げる人もいます。

 なお,1995年末にNetBSDから「OpenBSD」が派生します。FreeBSD,NetBSD,OpenBSDはそれぞれ違うポリシーで開発されており,現在でも広く利用されています。それぞれのOSの特徴は表4の通りです。これらのBSD系のフリーUNIXは,すべてライセンスにBSDライセンスを採用しています。このライセンスもオープンソース・ライセンスとして認定されています。

表4●BSD系のフリーOSの特徴
表4●BSD系のフリーOSの特徴