ルーターの持つIPパケットの転送機能をハードウエア化し,大幅に高速化したネットワーク機器がレイヤー3スイッチ。従来は大企業の基幹ネットワークがおもな活躍の場だったが,今やあらゆる場面で利用されている。Part1では,オフィスLANの主役となりつつあるレイヤー3スイッチの使われ方や製品カテゴリ,内部構成を見ていこう。

 LANの中核機器として急速に浸透し始めているのがレイヤー3(スリー)スイッチ(L3(エルスリー)スイッチ)だ。

 L3スイッチは,LANスイッチが進化して生まれた。LANスイッチはLANアドレス(MAC(マック)アドレス)を基にLANフレームを中継する機器である。これに対して,L3スイッチはIPアドレスを基に中継先を決めるルーター機能も兼ね備える。つまり,LANスイッチとルーターが1台になった装置である。

 レイヤー3プロトコル(IP)でスイッチすることから,レイヤー3スイッチと呼ばれているわけだ。

 オフィスLANの主役となりつつあるL3スイッチ。まずは使われ方と製品カテゴリ,売れている理由を見ていくことにしよう。

さまざまなネットワークで活躍

 小型から大型までさまざまなサイズの製品がそろっているL3スイッチは,その規模に応じてさまざまな場面で使われている(図1)。

図1●さまざまな場面で活躍するレイヤー3スイッチ<br>現在、企業ネットワークから通信事業者のいたるところでレイヤー3スイッチが使われている。企業がISPなどにつなぐWAN回線や,ISP内部のコア・ネットワークでは,ルーターが活躍することが多いが,そうした分野にもレイヤー3スイッチが使われ始めている。
図1●さまざまな場面で活躍するレイヤー3スイッチ
現在、企業ネットワークから通信事業者のいたるところでレイヤー3スイッチが使われている。企業がISPなどにつなぐWAN回線や,ISP内部のコア・ネットワークでは,ルーターが活躍することが多いが,そうした分野にもレイヤー3スイッチが使われ始めている。
[画像のクリックで拡大表示]

 小さいオフィスでは,パソコンを直接収容するLANスイッチを束ねる役割を果たす。大きなオフィス・ビルの場合なら,フロアのLANをL3スイッチでまとめ,ビル全体をさらに大型のL3スイッチでまとめる。

 インターネットの核となる部分でも,L3スイッチは活躍している。インターネット接続事業者(ISP)では,ユーザーからのアクセス回線を束ねる役割を担っている。また,ISP同士をつなぐIX(アイエックス)という施設にも大型のL3スイッチが使われている。データ・センターなどで多数のサーバーを束ねたり,通信事業者が広域イーサネット・サービスを提供したりする目的にもL3スイッチが使われている。

 このようにあらゆる場所で活躍するL3スイッチだが,従来のルーターを完全に置き換えたわけではない。インタフェースの種類が豊富なルーターに比べて,L3スイッチはイーサネットに特化して価格を抑えている側面が強い。このため,イーサネット以外のインタフェースを使うWAN回線では,ルーターが使われるケースが多い。また,ISPのバックボーンでは,まだまだ高速ルーターが主役。L3スイッチが採用されるケースはそれほど多くない。

規模に応じて約30倍の価格差

 L3スイッチと一口にいっても,いろいろなタイプがある。おおまかに分類すると,小型・低価格のボックス型と拡張性に富むが値段も高いシャーシ型に分かれる。

 ボックス型L3スイッチは,LANスイッチを置き換える場面で使われることが多い。

 一方のシャーシ型LANスイッチは,シャーシに各種モジュールを差し込んでシステムを構成する。数個~数十個のLANポートを備えるインタフェース・モジュールを,必要なポート数の分だけ購入して使う。

ルーターではパケット・ロスが頻発

 製品のバリエーションが増えてきたのに伴って,LAN同士を接続する場面ではいたるところでL3スイッチがルーターの代わりに使われ始めた。

 どこがルーターより優れているのだろう。中継機能そのものは,ルーターより優れている部分はあまりない。

 L3スイッチとルーターの違いは,パケット中継能力にある。L3スイッチはルーターと同じ中継処理を実行するが,単位時間当たりの処理量がルーターよりも格段に多い。それは,中継処理をハードウエア化することによって,短時間で処理できるようにしたからだ。

合い言葉はワイヤー・スピード

 L3スイッチの最大の特徴は,中継処理時にパケット・ロスがないことだ。L3スイッチ・メーカーはしばしば,「ワイヤー・スピードで中継できる」ことを誇示するが,これはLANの最大速度でデータを送り込まれてもパケット・ロスしないという意味。今やワイヤー・スピードの中継は,L3スイッチの最低条件となりつつある。

 この高速化ニーズにこたえられるように,L3スイッチは中継処理専用に開発されたスイッチ・チップを採用する。

スイッチ・チップとメモリーが協調

 さて,最後にL3スイッチの内部構成を簡単にまとめておこう(図2)。主な構成要素は,スイッチ・チップのほか,物理層処理を担当する「PHY(ファイ)チップ」,LANポートから入ってきたパケットを一時的に格納する「パケット用メモリー」,スイッチ・チップが中継処理時に参照する経路情報を保存する「アドレス用メモリー」,そしてCPUである。CPUは,アドレス用メモリーに書き込む経路情報を計算したり,スイッチ・チップが処理できないプロトコルの中継処理を担当したりする。

図2●L3スイッチの速さの源はスイッチ・チップにある<br>一般的なL3スイッチの構成要素を示した。中継処理はスイッチ・チップが中心となって進める。シャーシ型は,ここで紹介したモジュールを複数装備する。
図2●L3スイッチの速さの源はスイッチ・チップにある
一般的なL3スイッチの構成要素を示した。中継処理はスイッチ・チップが中心となって進める。シャーシ型は,ここで紹介したモジュールを複数装備する。
[画像のクリックで拡大表示]

 駆け足でL3スイッチの全体像を見てきた。もう一度L3スイッチの特徴を整理しよう。

 第一にLANスイッチとしても動作すること。第二に中継処理能力がルーターより格段に優れること。第三に中継処理をスイッチ・チップで実現していること。これがL3スイッチの特徴である。