Part1では,「ルーターは何を基に経路を選ぶのか」,「あて先がわからなかったらどうするのか」,「経路が複数あったときはどうするのか」といったルーティングの基本を見ていこう。

 私たちが普段なにげなく使っているインターネット。IPアドレスを指定するだけで,数万km離れた地球の裏側にあるサーバーへも簡単につながる。

 「そんなの当たり前だよ」と思っているかもしれないが,インターネットには何万台ものルーターがあり,目的地へ到達する道順は数え切れない。その中から最適な道を見つけて,確実にパケットを相手に送り届ける。それも何台ものルーターがバケツ・リレーのように,順番にパケットを中継しながら…。

 試しに記者の自宅から日経BP社のWebサーバーへアクセスしてみたが,それだけでも10台のルーターを経由していた(図1)。無数にあるルーターから,なぜこの10台がこの順番で選ばれたのだろうか。

図1●パケットが目的地へ届くのはルーティングのおかげ
図1●パケットが目的地へ届くのはルーティングのおかげ
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“道筋選び”これがルーティング

 こうしたことを可能にしているのが,「ルーティング」だ。

 ルーティングとは,インターネットの基本プロトコルであるIPの仕様書RFC791の中で,「転送する経路を選ぶこと」と定義されている。そもそもルート(route)は,道や経路という意味の英単語。ルーティング(routing)は「経路を選ぶ」という意味になる。そして,「経路を選ぶ人(装置)」がルーター(router)だ。つまり,ルーターがルーティングをしているから,パケットが届くのである。

ルーター1台から始めよう

 ルーティングは手にとって見ることはできないし,簡単に試してみることも難しい。そのうえ,「インターネットのような巨大なしくみは手に負えない」と思ってしまうかもしれない。

 しかし,今あるインターネットだって,ルーターを1台,2台,3台…と増やしていった結果にすぎない。実はルーティングのキモは,ルーターを3台まで増やしていけば,すべてわかる。だから,ここではルーターの台数を,1台,2台,3台と順番に増やしていって,基本技術をゆっくりとマスターしていこう。

 そうすれば,「ルーターは何を基に経路を選ぶのか」,「あて先がわからなかったらどうするのか」,「経路が複数あったときはどうするのか」といったルーティングの基本がわかる。実は,こうした疑問を解いていく過程は,ルーティング・テーブル,デフォルト・ルート,メトリック――という三つのキーワードを理解することでもある。

エッセンスだけで十分

 とはいえ,ルーティングの奥は底知れず深い。実際に稼働しているネットワークを知るには,こうした基本のうえに,ルーティング・プロトコルというルーター同士が情報を交換するしくみも理解していた方がよい。RIP(リップ)OSPF(オーエスピーエフ)BGP-4(ビージーピーフォー)といったルーティング・プロトコルである。これらは現在,企業のネットワークやインターネット接続事業者(プロバイダ)が実際に使っている。管理者やルーター・オペレータには,おなじみの技術である。

 ただ,ルーティング・プロトコルの細部までを知っている必要があるのは,実際にルーターを運用・管理するプロのオペレータだけ。ネットワーク技術者として押さえておきたいのは,「なぜ,このようなしくみが必要なのか」,「何がうれしいのか」,「適しているのは,どんなネットワークなのか」といったエッセンスだけでいい。

 エッセンスさえ押さえおけば,ルーター管理者やプロバイダの担当者とも対等に話ができ,意味がわからない用語で煙にまかれることはない。