Part4では,IPがパソコンやルーター内で果たしている四つの役割を押さえる。

 正しいIPアドレスさえ指定すれば,地球の裏側にだってIPパケットを届けてくれる。こんな重要な仕事を着実にこなしているのが「IP」だ。「パケットという単位でデータを送り,あて先IPアドレスなどをヘッダーに書き込む。そしてルーターがこの情報を基にあて先へ転送する」――。

あて先へ届けるだけじゃない

 たしかにIPの最大の役割は,相手にパケットを届けることかも知れない。しかし,ほかにも重要な役割が三つある。つまり,IPは合計四つの役割を持っている。では,その役割を確認するために,インターネットを道路,運ぶべきIPパケットを荷物に例えて考えてみよう。

 IPは,さしずめ宅配便の集配所にいる監督といったところ。IPとは,やりとりの手順や送受信データのフォーマットを決めるプロトコルだから,本来は形のあるものではない。しかし,この決まりに沿って仕事をするソフトウエアは存在する。ルーター,パソコン,サーバーなどの中で動いている,いわゆるIPモジュールだ。このIPモジュールを監督に例えれば,監督がいる集配所は,インターネットにつながっているパソコンやルーターとなるわけだ。

 そして,この監督(IP)は集配所で,トラックの荷物を積み替えたりする指示を出す。ちなみに,道路には交差点などもあり,そこでトラックはいったん止まったりするが,荷物の積み替えなどはしない。だから,交差点には監督はいない。交差点とは,いわばLANスイッチやハブのようなもの。信号によって交通を整理する。

 こうした宅配便システムをうまく動かすには,監督であるIPの力量が必要だ。それが,IPに求められる四つの役割である。

 一つ目は,監督がどのトラックに荷物を積むかを決めることだ。集配所のエリア内ならエリア内向けのトラック,エリア外なら目的地に近づく方向にある隣町の集配所行きのトラックに載せる。そうしないと,目的地に荷物を届けられない。

 二つ目の役割は,期限切れの荷物を捨てること。相手にうまく届けられなかった荷物が集配所やトラックの荷台にずっと残っていたら,いつかは届かない荷物ばかりでいっぱいになってしまう。だから,監督が期限切れの荷物を見つけて,捨てる指示をする。

 三つ目の役割はというと,大型トラックから小型トラックに荷物を載せ替える指示を出すことだ。最初から最後まで大型トラックに荷物を満載して運ぶことができれば問題はないが,道路の幅は場所によって違う。大型トラックでは通れないような狭い路地の先に荷物を届けなければならないこともある。こうなると,道幅に合ったトラックに荷物を積み替えるしかないが,大型トラックで運んできた荷物は,そのまま小型トラックに載せられない。監督は,荷物をいくつかに小分けする指示を出さなければならないのだ。

 さらに四つ目の役割として,届いた荷物の中身を検査する必要もある。配送途中で荷物が壊れてしまったら,それより先に送り届けてもムダだからだ。

四つの役割を押さえれば完璧

 IPはこれら四つの仕事をこなすために,さまざまな制御情報をパケットに書き込んだりする。荷物についた荷札にあて先や発送日を書いたり,中継した地点の消印を押したりするのと同じである。この荷札に相当するのが,IPヘッダーである。

 IPはこのヘッダーにさまざまな制御情報を書き込み,ときにはその情報を参照したり書き換えたりして,目的地までパケットを送り届けるのである。だから,インターネットは行き先不明のパケットで埋め尽くされたり,壊れたパケットが飛び交ったりせず,どんな通信回線を経由しても相手に届く。

 では,このあとに続く本論で,それぞれの役割がなぜ必要なのか,そのためにIPはどんな仕事をこなしているのかということを詳しく見ていこう。

 IPが担っている四つの役割の意味と,具体的な仕事内容さえ押さえれば,IPがどんな働きをするプロトコルなのかという本質がわかるはず。そうなれば,インターネットが動くメカニズムも明確になる。