Part8までは,システムを考慮しないで,業務要求をとらえました。Part9では,業務におけるシステムの「利用方法」をとらえます。利用者の役割と「利用方法」によってシステムの範囲を明確にします。

 Part9は,演習編の7回目です。Part8までは,業務レベルのモデリングを解説してきました。業務レベルでは,システムを考慮しないことで,業務で実現すべきこと,すなわち業務要求をとらえやすくしました。

 Part9からは,システム・レベルのモデリングを解説していきます。業務要求から論理的にシステムで実現すべきことを導くために,業務の構成要素としてシステムをとらえます。

 ただし,システム要求を把握することが重要なので,システムの実装技術であるプラットフォームは考慮しません。プラットフォームを捨象することで,システム要求がとらえやすくなるわけです。

 システムは業務の手段に過ぎませんので,業務において誰がどのような手順でどのようにシステムを利用するのかを明確にすることが,使われる/使えるシステムを開発することにつながります。本講座ではどのようにシステムを利用するのかをシステムの利用方法と呼ぶことにします。

 例えば,ATMシステムの利用方法は「お金を預ける」や「預金を引き出す」,「残高を照会する」などです。このように,システムの利用方法とは,システムの基本的な振る舞いである機能性を定義する概念です。

 Part9の演習の目的は,システムの利用方法を明確にすることと,システムの範囲を明確にすることです。システムの利用方法を明確にすることが,システムの範囲を明確にすることにつながります。具体的な作業として,演習では「システム化業務フロー図」と「アクター図」,「ユースケース図」を作成します(図1)。

図1●Part9の演習範<br>Part9の内容は,システムの利用方法をシステム化業務フロー図で可視化する演習と,業務関係者がシステムを利用する際の役割をアクター図で可視化する演習,そして,システムの範囲をユースケース図で可視化する演習です
図1●Part9の演習範囲
Part9の内容は,システムの利用方法をシステム化業務フロー図で可視化する演習と,業務関係者がシステムを利用する際の役割をアクター図で可視化する演習,そして,システムの範囲をユースケース図で可視化する演習です
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システムのレーンを追加する

 Part9の1つ目の演習は,システムの利用方法をシステム化業務フロー図で可視化することです。表記法は,UMLの「アクティビティ図」をベースにした独自表記法です。サンプルを図2に示します。

図2●システム化業務フロー図のサンプル<br>システム化業務フロー図の視点は,業務の手段としてシステムの利用方法を明確にすることです。表記法は,UMLのアクティビティ図をベースにした独自表記法です
図2●システム化業務フロー図のサンプル
システム化業務フロー図の視点は,業務の手段としてシステムの利用方法を明確にすることです。表記法は,UMLのアクティビティ図をベースにした独自表記法です
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 本講座では,具体的なサンプルとして中古車販売業務を取り上げています。中古車販売業務は,中古車受注プロセスと代金請求プロセス,納車プロセスから構成されることにしています。例えば,中古車受注プロセスの作業は以下のとおりです。

1. お客様は中古車の購入を希望する
2. 販売担当は在庫を問い合わせる
3. 在庫管理担当は在庫を伝える
4. 販売担当は中古車の見積を作成する
5. お客様は中古車を注文する
6. 在庫管理担当は在庫を引き当てる
7. 販売担当はお客様を登録する
8. 販売担当は中古車を受注する

 なお,上記6.の作業と,7.から8.までの作業は,並行して行うことができます。

 今回は,業務の構成要素としてシステムをとらえますので,業務レベルで作成した業務情報フロー図に,レーン(垂直の実線で区切られた領域)を追加します。

 Part7でサンプルとして示した中古車受注プロセスの業務情報フロー図を図3に再掲します。図3と比較して,図2ではシステムのレーンが追加されていることが分かるでしょう。システム名は「中古車受注システム」としています。

図3●業務情報フロー図のサンプル<br>中古車受注プロセスの業務情報フロー図を再掲します
図3●業務情報フロー図のサンプル
中古車受注プロセスの業務情報フロー図を再掲します
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