Part5は「者-事-物」という考え方で業務概念を明確にしました。 Part6は,業務概念に「ストリームラインオブジェクトモデリング」の「協調パターン」を適用して洗練します。

 Part6は,演習編の4回目です。Part5は,対象とする業務を説明するために必要十分な概念を明確にする演習を解説しました。「者-事-物」という考え方が基本になっていました。

 Part6の演習は,Part5で作成した業務概念図にパターンを適用して,業務概念を洗練することが目的です。パターンとは,何らかの制約がある状況において,繰り返し発生する問題に対する解決策です。例えば,将棋の定跡のようなものです。パターンを適用することで,過去の成功を基礎にしたモデルをすばやく作成できます。また,作成したモデルは,理解がより簡単になります。

 Part6では,パターンとして,業務を対象にしたオブジェクト・モデリング方法論の入門書「ストリームラインオブジェクトモデリング」でまとめられているものを取り上げます。この中では12種類の「協調パターン」が紹介されています。

 協調パターンは,Part5の「者-事-物」パターンを詳細にしたものです。例えば,者同士の関係や物同士の関係が追加されています。わずか12種類のパターンでほとんどの業務をモデリングできますので,皆さんの参考になるでしょう。

 本講座においては,協調パターンを二重山括弧で表記します図1)。この表記は,「ロール名」の「ステレオタイプ」を意味します。

図1●モノ(者,物)・コト(事)・バ(場)の協調パターン
図1●モノ(者,物)・コト(事)・バ(場)の協調パターン
ストリームラインオブジェクトモデリングにおける12種類の協調パターンをニ重山括弧(ステレオタイプ)で表記します。本講座独自の用語(意訳語)を使用しています。長方形(クラス)は,そのパターンに関係する概念の典型的な分類を示します

 図1の長方形(クラス)は,そのパターンに関係する概念の典型的な分類を示します。典型的な分類には,前回の者と物,事に加えて「場」があります。場とは,場所や場面のことです。場は,共通認識になっているという前提で,省略されることも多いです。しかし,初めのうちは,誤解が生じることもありますので,明示するようにしましょう。

 それでは,12種類の協調パターンを1つずつ説明していきます。

「者」は役割を持つ

「者」は役割を持つ

 〈〈主体〉〉と〈〈役割〉〉のパターンは,ある状況において者(人や組織)がどんな役割を持つかを表します。例えば,主体としての人は,ある状況において社員という役割を果たします。このパターンは,者だけではなく,物や場に適用することもあります。

 主体は,複数種類の役割を果たします。例えば,人は,会社において社員という役割を果たすほかに,家庭では親という役割を果たします。

 一方,役割は確実に1つの主体を持っています。主体のない役割は無効です。また,ある主体の役割は,別の主体へは移せません。例えば,Aさんという主体がその会社で果たしているA社員という役割は,Bさんへは移せません。A社員という役割は,Aさんという主体を持たなければならないのです。

 ある状況における役割は,場合によって,他の役割に対する主体として振る舞います。例えば,ある会社におけるA社員という役割は,その会社のある部署では,A部員という役割の主体として振る舞います。つまり,主体と役割は,考慮する対象の範囲で変化する相対的な関係です。