そもそもADSLとはいったいどんなネットワーク技術なのか。Part1では,ADSLの基本的なしくみや用語,利用する機器などについて学ぶ。

 身近にありながら,わからないことが多いのがADSLというネットワーク技術。「同じサービスなのに実際の速度が違う」,「ときどき接続が切れる」といった話をよく耳にする。次々と出てくる新しい技術の違いもわからない。伝送距離を延ばし,1.5Mから8M,12Mビット/秒と順調に速度を上げてきたADSLが,最近ではさらに50Mビット/秒を超える速度を身につける。

ADSLには三つの意味がある

 ADSLについて,真っ先に押さえておきたいのは,そもそも『ADSL』とはどういう意味なのかということである。これを正しく理解している人は意外と少ないのではないだろうか。

 ADSLとは,三つの言葉の頭文字を取った用語である。Aは,「Asym-metric(アシン メトリック)」(非対称),Dは「Digital」(ディジタル),SLは「Subscriber Line(サブスクライバー ライン)」(加入者回線)をそれぞれ示している。これらはどういう意味なのか,順番に見ていこう(図1)。

図1●ADSLとは?<br>自宅から電話局までの間を,電話線(メタル・ケーブル)を使って高速にデータをやりとりするしくみ。ユーザーがデータを受けとる方(下り)の速度が送る方(上り)よりもずっと速いというのが大きな特徴だ。
図1●ADSLとは?
自宅から電話局までの間を,電話線(メタル・ケーブル)を使って高速にデータをやりとりするしくみ。ユーザーがデータを受けとる方(下り)の速度が送る方(上り)よりもずっと速いというのが大きな特徴だ。
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 まず,非対称というのは,上りと下りの速度が異なるということを意味している。上りというのは,自宅からインターネットへの方向,下りは逆にインターネットから自宅への方向の通信である。通信の世界では,上り(送信)と下り(受信)で速度が異なるというのは,実は珍しい。

 例えば,ADSLと同様のWANサービスであるISDNは,上りも下りも64kビット/秒で通信できる。100Mイーサネットなら,送信も受信も100Mビット/秒でデータをやりとりする。

上りより下りが圧倒的に速い

 それなのに,ADSLはなぜ非対称なのだろうか。それは,ADSLが一般の家庭でインターネット・アクセスに使うのを想定した通信技術だからだ。

 われわれが普段インターネットを使うシーンを思い浮かべてみよう。例えば,もっとも一般的なWebアクセスの場合,インターネットから受信するデータ量(下り)の方が,自分が送信するデータ量(上り)よりも圧倒的に多い。サーバー公開でもしない限り,上りの速度はあまり必要ない。よってADSLは下りの速度を重視しているのだ。

 もう少し,この非対称という部分を掘り下げて見ていこう。

 ADSLは,電話よりも高い周波数帯域を幅広く使ってデータを伝送するしくみである。このADSLで使う周波数帯は,約4kHz(ヘルツ)ごとに細かく区切られており,データを送るときには,それぞれの周波数帯域ごとに少しずつデータを持たせてやりとりする。利用する周波数帯域をレーンで区切り,各レーンごとに人を配置してデータを運ばせるイメージだ(図1)。このレーン,つまりデータを扱う周波数の最低単位のことを専門用語で「ビン」と呼ぶ。

 ADSLの上りと下りが非対称なのは,この使えるビンの数,つまり周波数帯域全体の幅が異なるからだ。8メガのADSLでいえば,下りのビンの数は最大223本で,上りの最大26本と比べると圧倒的に多くなっている。