SCMはすでに紹介したように,企業の取り組みを指す考え方である。「導入すればSCMが実現するようなパッケージ」は存在しない。しかし,SCPソフトは,「在庫や生産量の最適化」に欠かせないSCMにとって最も重要なシステムであり,SCMを実現するには必須といっても過言ではない。そこでPart2では,SCPソフトの使い方や機能の実際について解説していく。

 ここまでの説明を見て,SCMが何となくわかった気になるという人もいれば,まだモヤモヤしているという人もいるだろう。

 後者の中には「SCMシステムと呼べるような,パッケージ製品でもあればイメージしやすいのに」という人が案外,多いのではないか。

 だがSCMはすでに紹介したように,企業の取り組みを指す考え方である。「導入すればSCMが実現するようなパッケージ」は存在しない。ユーザー企業がSCMを実現しようとする場合は,生産や販売の実績データを管理する基幹系システム(もしくはERPシステム),取引先と受発注データをやり取りするのに欠かせないEDIネットワーク,受発注などに欠かせない,顧客を管理するCRMシステム,そして商品の売れ行き(需要)を予測する機能や生産・販売・物流計画の立案機能を持つSCP(Supply Chain Planning)ソフトといった様々なシステム群が必要になる。

 図5にこれらのシステムが,SCM全体の中でどう位置づけられるのかを示したので,参考にして欲しい。

図5●SCMは,基幹系システム/ERPやCRM,EDIネットワークなど多くのシステムが支えている。その中で様々な計画の策定という中心的な役割を担うのがSCP(Supply Chain Planning)ソフトだ。この図はメーカーにおける,各システムの役割を示したもの。図中の番号は一般的な処理の順番を表している
図5●SCMは,基幹系システム/ERPやCRM,EDIネットワークなど多くのシステムが支えている。その中で様々な計画の策定という中心的な役割を担うのがSCP(Supply Chain Planning)ソフトだ。この図はメーカーにおける,各システムの役割を示したもの。図中の番号は一般的な処理の順番を表している
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 ERPやCRMなどは,SCMに特有なものではない。これに対してSCPソフトは,「在庫や生産量の最適化」に欠かせないSCMにとって最も重要なシステムであり,SCMを実現するには必須といっても過言ではない。

 そこで以下では,メーカーにおけるSCPソフトの使い方や機能の実際について解説していく。

統計手法で需要を予測

 SCPソフトが持つ機能は,(1)商品の需要を予測する機能と,(2)販売計画立案機能,(3)生産計画立案機能という3つに大きく分けられる。

 商品の需要予測は,最終的な在庫数や生産量を決定する基礎データとなる。小売店や卸店,メーカー,部品サプライヤにとって常に最適の在庫を維持するというSCMを実現するためには,この予測の精度を高めることが極めて重要である。需要予測の基になる主なデータは,小売店がPOSシステムで収集する販売実績データや,前年の同じ時期にその商品をどれだけ出荷したかを表す前年同期比データなどだ。

 SCPソフトは,これらのデータを基幹系システムから取り込み,数学的統計手法を使って需要を予測(図6)。同時にグラフ表示などユーザーにとって理解しやすい形で提示する機能を持つ。これを見て人間が最終的に生産量,資材の発注量を決めるわけだ。需要予測に使える統計手法は何種類も存在しているが,SCPソフトに搭載しているものは,移動平均法や指数平滑法,重回帰分析法などが代表的である。

図6●SCPソフトを利用した需要予測値の算出。多くのSCPソフトは移動平均法や指数平滑法など,需要予測のための統計的手法を複数搭載しており,商品の特性などに応じて使い分けることが一般的だ
図6●SCPソフトを利用した需要予測値の算出。多くのSCPソフトは移動平均法や指数平滑法など,需要予測のための統計的手法を複数搭載しており,商品の特性などに応じて使い分けることが一般的だ
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 移動平均法と指数平滑法は簡単に言えば,過去の販売や生産実績の変動のトレンド(傾向)から,将来の販売数や生産数を予測するものだ。この2つは「単変量解析」と呼ばれるもので,販売数を予測する場合は,過去の販売データの実績値を唯一の基データとして,将来を予測する。

 一方の重回帰分析法は,「多変量解析」と呼ばれるもので,時間とともに変化する複数のデータを扱うことが特徴だ。例えば,自社商品Aの将来の販売数を知りたい場合に,それと一定の関係がある卸売物価指数,鉱工業生産指数などのデータを選び,そのデータと求めたい数値(ここでは販売数)との関係を表す数式(モデルと呼ぶ)を作成する。

 これに卸売物価指数や鉱工業生産指数などの過去データを当てはめることで,商品Aの将来における販売数を予測するのである。

 同じ商品に対する予測でも,使う手法が違えば当然,予測結果は異なる。そこで,一定期間テスト運用をして,商品の特性などに応じてどれが精度が高いかを見極めたり,複数の手法で算出した結果にそれぞれ重み付けをして,その平均を取るといった使い方をする。