文・上田優子(日立総合計画研究所政策経済グループ 研究員)

 パブリックコメントとは、行政機関が作成した政策案やその関連資料を公表して広く意見を募集し、寄せられた意見を考慮して最終的な意思決定をする仕組みのことです。行政機関は、寄せられた意見の内容と、それを踏まえて案をどう修正したかを公表します。

パブリックコメントの流れ
資料:総務省

 パブリックコメントの目的は、政策策定にあたっての透明性を高め公正さを確保することを通じて、国民の権利や利益を保護することで、欧米でも広く実施されています。国民にとっては、従来は知らぬ間に定められがちだった政策の策定過程やその根拠を理解できる、必要に応じて行政機関に直接意見を表明し反応を得られるといったメリットがあります。行政機関にとっては、国民の意見をくみ上げ政策に反映させる有益な手段です。

 日本では1999年に、国の行政機関が規制を制定する場合にはパブリックコメントを実施することが閣議決定で定められました。現在は、Webサイトへの掲載や窓口での通知の配布、新聞や広報紙への掲載などにより、意見募集が公示されています。提出された意見の内容をどう考えたかを回答している省庁もあります。しかし、2004年度に意見が募集された856案件のうち、約3割(256件)で意見の提出がなく、約4割(323件)で10件以下の意見提出に止まるなど、国民がパブリックコメントを十分に活用しているとは言えない状況です。こうした状況を改善するため、2005年6月に改正行政手続法(行政手続法の一部を改正する法律)が制定されました。

 この法律の施行に伴う主な変更点は次の4点です。第一に、意見を募集する範囲を、規制の新設や改廃のみから、国民の権利や義務に直接係わる命令一般(法律に基づく命令、規則、審査基準、処分基準、行政指導指針)にまで拡大し、募集しない場合はその理由を公表することを定めました。これは、パブリックコメントを国の行政機関の統一的な手続きとして定め、一層の普及をはかろうとするものです。第二に、意見募集の公示は全てWebサイトへの掲載により行うこととしました。現在も電子政府の総合窓口を通じて、意見を募集している案件の多くにアクセスできますが、今後は全ての案件が一覧できるようになります。第三に、関連資料の公開を義務付けました。これは、現状では関連資料の公開が不十分なため、規制制定の根拠や規制制定に伴うメリット、デメリットを国民が判断しにくいという問題に対応するものです。第四に、従来は十分な意見募集期間が確保されていない案件が多かったことから、30日以上の意見募集期間を確保することとしました。改正行政手続法は2006年4月に施行される予定で、これによりパブリックコメントが国民にとってより利用しやすい制度となり、活発な意見提出が行われることが期待されます。

 国よりも身近な政策を実施する地方自治体において、パブリックコメントは住民の意見を把握し政策に反映させるための手法として一層重要です。例えば横浜市では、2003年に制定した実施要綱に基づいてパブリックコメントを実施しています。横浜市で特徴的なのは、第一に、基本計画など重要な政策や住民の生活に影響を与える規制のうち、策定スケジュールが見通せるものについては、意見募集の予定をWebサイトで予め掲示していることです。募集時期が近づくと、Webサイトの目立つ場所で予告を行い、意見の募集を住民に周知しようとしています。第二に、寄せられた意見の内容とそれに対する市の考え方を明らかにすることを定めていることです。住民は、自分の意見がどう反映されたのか、なぜ取り入れられなかったのかを知ることができます。これまでに意見が募集された50以上の案件の多くで意見の提出があり、住民の意見をくみ上げる手法として定着しています。

 2005年4月の調査(総務省)を見ると、政令市と中核市の約7割、特例市の約6割でパブリックコメントが制度化され、地方自治体にも浸透しつつあるようです。今後は、周知を徹底することや提出された意見へ回答することなども含め、パブリックコメントの制度化をさらに進め、住民参加の一つの手法として定着させていくことが望まれます。