村尾氏写真

村尾信尚(むらお・のぶたか)

関西学院大学教授

1955年岐阜県高山市生まれ。78年一橋大学経済学部卒。同年、大蔵省(現・財務省)入省。95年7月に三重県総務部長(98年4月から総務局長)。北川正恭・前知事のもとで県庁改革に取り組む。98年大蔵省に戻り主計局主計官、2001年財務省理財局国債課長。02年12月に在籍していた環境省を退職。03年10月より現職。01年2月には納税者のためのNPO「WHY NOT」を設立。著書に『「行政」を変える!』(講談社現代新書)など。

 行政改革の基本は、一にも二にも情報公開だと私は思っています。限りなく透明に近い政府にして、税金を負担する納税者から質問があったときにきちんと答えるのが基本です。三重県で前・北川正恭知事時代に、総務部長として行革を担当したときには、納税者に対する説明責任がつく/つかないを基準に、事業の継続/廃止の判断を行いました。

 現在、自治体では事務事業評価システムの導入がさかんに行われています。実は、私が在籍した当時、三重県でもいち早く取り入れました。しかし、今全国で行われている事務事業評価システムは、評価のために評価しているというありさまで、労多くして益少なし、という状態だと思います。

 そもそも役人というのは、こうした評価に基づいて事業を進めるわけではありません。例えば、「橋を作る」とまず決めて、作るとなったらそれを正当化するためのデータを、どんなにこじつけであっても、どこからか引っ張ってきます。自分の仕事を正当化するためには、それこそ一生懸命になるのです。こうした数字の操作を外部の有識者が見抜いて評価するのは、ほとんど不可能といっていいくらい難しいでしょう。

 なぜなら、評価を行う民間の有識者がどんなに優秀でも、彼らは経営者、弁護士などの本業で忙しいからです。多忙な中、役所に足を運んで月に1度、2~3時間程の説明を聞いただけで、内容をきちんと理解したうえで「そこはおかしいんじゃないか」「近隣の自治体と比較してどうか」といった指摘をする人は、現実問題としてほとんどいないのです。結局、今の事務事業評価は、「役人の役人による役人のための評価」を行って有識者のお墨付きをもらっているに過ぎません。このような事務事業評価を行うために、自治体職員はどれだけ残業をしていることか。

■公開する情報は、見せ方にも工夫を

 私は、納税者に対する一番の情報提供は、発生主義会計でバランスシートと損益計算書を作り、それを公開することだと考えています。

 ただ、情報公開条例ができたのに、住民はこれをうまく使いこなしていません。ここに問題があります。そこで、情報公開請求に基づいて役所が提出する公開対象文書の様式を納税者が分かりやすいものにするべきです。住民が役所に情報公開を求めるケースは、おそらく15~20くらいのパターンに分けられると思います。税金の使い方については、私が実際に様式のひな形を作ってみましたが6つくらいの項目を埋める形式で様式を作ることができました。

 もう一つ、自治体財政の透明性に関連していえば、そろそろ国との財源の奪い合いだけでなく、例えば自治体は個人住民税の引き上げを住民に諮る時期にきているのではないでしょうか。地方分権の時代に、個人住民税が全国ほぼ横並びなのはおかしな話です。

 増税をしなくては(多くの)自治体は壊れてしまう段階に来ているのですから、情報をきちんと公開したうえで「こうしたサービスをしたいので増税をさせてください」とお願いをするという姿勢が、納税者に対する真摯な態度だと思います。

(2005年12月19日に行われた「より良き公会計のための勉強会(仮)」(編集部注:その後、正式名称は「自立・自治の公会計改革研究会」と決定)における講演より)