文・高畑和弥(日立総合計画研究所 電子政府プロジェクト・リーダー)

 SNS(Social Networking Service または Social Networking Site:ソーシャル・ネットワーキング・サイト)とは、参加者が交友関係を広げることを目的とした会員制のWebサイトです。2003年ごろから米国で盛んになり、日本でも「mixi(ミクシィ)」「GREE(グリー)」など、ここ1、2年の間に多くのSNSが開設されています。利用者も急増しており、総務省の「ブログ及びSNSの登録者数」によると2005年9月末時点で日本国内の登録者数は339万人と推計されています。また、総務省が中心となって推進している「情報フロンティア研究会」研究報告(2005年6月)の試算では2007年3月末には登録者数は1042万人に達すると見込まれています。

 SNSに会員として登録すると、自分のホームページが割り当てられ、そこに自己紹介や日記などを掲載することができます。さらに、友人のホームページと自分のホームページをリンクさせたり、さまざまなコミュニティー(ある特定のテーマについて他の参加者と意見交換や情報共有を行うための交流の場)に参加したりすることができます。

 誰でも利用できる電子掲示板やブログと異なり、大半のSNSでは会員からの招待がないと参加できない「招待制」を採用しています。また、匿名での書き込みは行えないため、悪口や中傷などのトラブルが少ないという利点があります。現在、地方自治体が提供する電子会議室は電子掲示板を利用したものが主流です。しかし、一部の地方自治体を除いては参加者が少なく活発な議論が行われなかったり、悪口や中傷によって会議室に混乱が生じるなどの問題を抱えており、健全に機能している事例はわずかです。こうした状況を打開するための手段としてSNSの活用が注目を集めています。

 熊本県八代市では、2004年10月から地域ポータルサイト「ごろっとやっちろ」を電子掲示板からSNSに変更しました。その後、登録者数、アクセス数ともに急増し、最近では1日120件前後の書き込みがあるほどの活況を呈しています。また、問題発言なども少なく、活発な議論と秩序の両立に成功しています。「ごろっとやっちろ」のソースコードは「open-gorotto」というサイトでオープンソースとして公開されており、このソースコードを利用したSNSの構築を検討する地方自治体も現れています。

 総務省では、SNSと公的個人認証サービスに対応した電子アンケートシステムを使った実証実験として、新潟県長岡市と東京都千代田区を対象に「地域SNS等を活用した地域社会への住民参画に関する実証実験」を開始しています。2005年12月から約2ヵ月間にわたって行われるこの実証実験では、ITを活用した地域コミュニティー内の交流推進に加えて、災害時用の情報提供メディアとしての活用など、SNSのさまざまな活用方法と課題を明らかにすることを目指しています。

 一方、地方自治体だけでなく、「Clover(兵庫県)」「ドコイコSNS(香川県)」「VARRY(福岡市)」などのように、民間企業が地域限定のSNSを立ち上げる事例も多く見られます。地域活性化や地域コミュニティー内の交流推進を目指したこれらのSNSを特に「地域SNS」と呼ぶこともあります。今のところ地域SNSの運営については、地方自治体と民間企業の間に明確なすみ分けが存在しません。今後は、地方自治体が地域SNSのような草の根的メディアにどの程度まで関与すべきかという点が検討課題として残るでしょう。