■熊本県は、電子県庁システムに関する投資対効果を算出した。その投資額とシステムの導入に伴う職員の業務効率化、住民サービス向上の効果について、金額換算で示した。その結果、現時点では効果は現れていないものの、5年後の2009年度にはシステム投資額をシステム導入による効果の累積額が上回るとしている。(塗谷隆弘)

※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』 2005年秋号に掲載されたものです。


熊本県

 電子自治体は、業務の効率化と住民サービスの向上を図るためのツールである。しかし、本当に投資に見合った効果は上がっているのか。投資額に見合う効果は何年後に現れるのか。このような計算を実際に定量的に計測・公表した自治体は数少ない。

■2004年度までの4年間で43.9億円の“赤字”

 2005年6月に熊本県地域振興部情報企画課が公開した「電子県庁の構築に関する取組状況と投資効果の検証」と題したレポートは、熊本県がこれまでに導入した、あるいは今後導入を予定している電子県庁関連のシステムに関して、その投資額とシステムがもたらす効果を金額として定量的に算出したものだ。

 レポートによると、2001年度から構築してきた情報通信基盤、2005年度までに稼働しているシステム、そして2005年度現在で構築中のシステムの構築費用とそれらの2009年度までの運営費用の累積額は約159億8000万円。これに対し2009年度までに職員の業務時間の削減や県民への負荷軽減、用紙削減といった効果の累積額が約166億1000万円。つまりシステム導入により得られる業務改善効果の累積額は2009年度に累積投資額を約6億2000万円上回るという見積もりが示された(図1)

■図1 熊本県のIT投資と効果試算の結果
図1 熊本県のIT投資と効果試算の結果
2009年に累積効果が累積費用を上回る。

 2001年度から2004年度までにネットワーク・インフラなどの情報通信基盤を整備したため、この4年間の累積経費は60億3000万円に上る。これに対して、2001年度から2004年度までのシステム導入による効果は16億4000万円。このままでは43億9000万円のマイナスである。しかし、2009年度までの中期的なスパンで見れば、情報化投資に見合った効果が期待できるという計算だ。

 2005年度以降、基盤整備のように大きな投資案件はひとまず落ち着き、一方で電子決裁やCALS/EC(公共事業支援総合情報システム)導入による効果が毎年着実に上がるようになる。金額換算した導入効果が、累積投資額を上回るターニング・ポイントが2009年度であるというわけだ。

■4カ年計画の総まとめ、システムの投資対効果を算出

西坂幸二氏
熊本県地域振興部
情報企画課
電子県庁推進班
主幹
西坂幸二氏

 熊本県は1997年度から行政の情報化を進めるための4カ年計画「行政情報化推進計画」を実行、1人1台パソコン、電子メールや防災システムなどが稼働した。これに続けて2001年度から4年間「行政情報化推進計画」のもと、LGWAN(全国自治体間総合行政ネットワーク)や認証基盤、住民基本台帳ネットワークなどの情報通信基盤、グループウエアや県議会議事録検索システム、文書管理システムや電子申請受付システムなどを構築してきた。

 2004年度末をもってこの計画の期間は終わったが、その区切りに当たって、計画期間内の投資額と効果について定性的、定量的両面からの検証を行うことになった。「行政情報化推進計画のプランの中に、既に電子県庁に関する部分は投資効果を検証するということが盛り込まれていた。計画の見極めをした結果を次期計画に反映させるためだ」(熊本県地域振興部情報企画課電子県庁推進班の西坂幸二主幹)。