■8月20日、横浜プリンスホテルで開催された「GLOCOM forum2005」において、「地方政府のIT調達改革」と題するパネルディスカッションが行われた。地方自治体や国のIT調達改革に詳しい専門家6人が活発な議論を交わした。(構成・庄司昌彦=地方自治体IT調達協議会事務局、国際大学GLOCOM助手)

※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第9号(2005年10月1日発行)に「特集2 IT調達の波に乗り遅れるな」の「第2部 討論編」を掲載したものです。

前川徹氏
富士通総研経済研究所主任研究員。地方 自治体IT調達協議会委員。
大和田崇氏
ストック・リサーチ代表取締役。地方自治 体IT調達協議会委員。コンサルティングの 立場で中央省庁と地方自治体双方の調達 改革に携わっている。
座間敏如氏
財務省情報化統括責任者(CIO)補佐官、 ベリングポイントシニアマネージャー。 2003年11月に財務省CIO補佐官に就任。
石川雄章氏
国土交通省東京国道事務所長。前職の高 知県の理事(CIO)時代にIT調達ガイドブッ クの作成などに携わる。
庄司昌彦氏
国際大学グローバル・コミュニケーション・ センター(GLCOM)研究員。地方自治体IT 調達協議会の事務局として調査を実施。
廉宗淳(ヨム・ジョンスン)氏
イーコーポレーションドットジェーピー代表取 締役社長。佐賀市の電子自治体の構築全般 にコンサルタントとして携わる。

モデレーター:前川徹(富士通総研経済 研究所主任研究員) 地方自治体IT調達協議会の調査結果から、地方自治体のIT調達の方向性、手法、進ちょく状況には、かなりばらつきがあることが分かりました。

大和田崇(ストック・リサーチ代表取締役社長) 大手ベンダーの寡占や、コストが不透明であるという点は、中央省庁も地方自治体も抱えている問題は共通です。しかし、中央省庁の場合は、リソースの最適配分とか、コストにメスを入れるとかエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の導入によって大まかな解決の糸口は見えてきたと思います。

 ところが地方自治体は、自治体の規模による違いや、地場企業の育成などの課題があります。特に規模の小さい自治体はリソースが少なく、民間から人材を登用することも難しい。地方自治体では、それぞれの状況を踏まえながら、いかに共通の解決策を見出すかが今後の鍵でしょう。

座間敏如(財務省情報化統括責任者(CIO)補佐官、ベリングポイントシニアマネージャー) 中央省庁のIT調達改革では、コストの高さからレガシー・システムが取り沙汰されました。この問題の本質はベンダー・ロックインです。たとえオープンな仕組みを使っても、特定ベンダーに囲い込まれるようでは解決とはいえません。

 それに対する具体的な改革策が、CIO、CIO補佐官の任命と、「業務・システム最適化計画」の作成、業務を効率化する割合や統廃合するシステムを宣言する「見直し方針」の公表です。財務省では、業務の見直しに当たって、コンサルタントに頼るのではなく職員が自ら考えます。

 こうしてI Tガバナンスの仕組みを確立して業務とシステムの現状と将来像を可視化し、職員が共有するプロセスがEAです。EAの形骸化を防ぐためには、ガバナンスの強化と成熟が重要だと思います。意思決定プロセスの中にシステムをきちんと織り込み、業務を考える段階からシステムも一緒に考えていく。私は財務省のC I O 補佐官に就任した直後、IT調達で重複や無駄がないか、目的から外れていないかを、すべて私がチェックする仕組みを作りました。役所は仕組みを作ればきちんと動く組織なので、こうした工夫が有効です。

大和田 中央省庁の様子を見ると、EAの形骸化が早くも始まり、制度に対応できるベンダーが有利になってきています。こうした形骸化を防ぐためには人の問題が重要です。現在は外部から人材(CIO補佐官)が入っていますが、何年か後に内部の職員が担当に就いたときに、制度を本質的に生かすために動くことができるかが課題です。

■随意契約は悪ではないが情報公開で外部統制を

前川 入札制度の問題についても考えたいと思います。庄司さん、入札制度や契約形態については調査を通じてどう考えられましたか。

庄司昌彦(国際大学GLOCOM研究員) 今回の調査では一般競争入札などの公募案件を調べましたが、2年間で数十件公募している自治体もあれば、ゼロというところもありました。公募案件が少ない自治体は、指名競争入札や随意契約で調達していると考えられます。

 ただし、すべて競争入札にすればいいのかというと難しいところです。ベンダーからは「入札の制約が厳格すぎて自治体の人と話もできないようでは、システムの品質にも響く」という話を聞きます。自治体からも、「本当は信頼関係に基づいた随意契約の方が望ましい」という声も聞きます。

石川雄章(国土交通省東京国道事務所長、前・高知県CIO) システムの規模や形態、中身に応じて適切な方法があります。安値入札の事例はだいたい億単位の大規模システムですが、実際に県の発注で多いのは、数百万円規模の案件です。手続きばかり細かくしていたら、時間や人件費がかかってしまい話になりません。調達案件の規模も含め、適切な方法を考えないといけないでしょう。これは事例を積み重ねていけば、標準のようなものがでてくると思います。

前川 もちろん、ベンダーに「おんぶに抱っこ」では駄目で、お互いに緊張関係があるのが前提になりますね。とはいえ、信頼関係に基づいた随意契約は、調達側にそれなりの人材がいないとなかなか難しい。中央省庁はどうですか。

座間 人材は少ないですね。私は入札は善、随意契約は悪、とは思っていません。ただし、随意契約をする場合には新規の案件であれば企画競争にして評価基準などを事前にすべてチェックし、点数は公開することにします。継続案件では、前年度の稼動実績とコスト、それらの妥当性を整理して、説明責任を果たせる状況を作ってから随意契約にします。入札の場合も、極力、総合評価落札方式を用いて、価格だけではなく技術点も見ます。技術点が優れているものについては、さらにデモで精査します。

大和田 外部から統制するには、情報公開しかないと思います。そのシステムを作る理由やその業者に発注する理由を広く公開していけば大きな問題は起きないはずで、現状ではそこに課題があると思います。