文. 坂本真理(日立総合計画研究所 政策経済グループ 研究員)

 KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)は、企業や行政機関が事業評価や業務改革を行う際に活用する指標です。例えばBSC(Balanced Score Card)に基づき、企業や行政機関が業務改革を実施する場合には、組織としてのビジョンを実現するために、「財務の視点」、「顧客の視点」、「内部プロセスの視点」、「学習と成長の視点」の4つの視点から戦略目標を策定しますが、その戦略目標の達成度を定量的に測定するために、あらかじめ適切と思われる指標をKPIとして設定します。

■図表 企業のBSCにおけるKPIの一例

財務の視点顧客の視点業務プロセスの視点学習と成長の視点
戦略目標利益の向上顧客満足度の向上開発力の強化ナレッジマネジメントの強化
KPIの例売上高利益率顧客リピート率新規製品開発件数社員あたり売上高

 事前にKPIを設定しておくことにより、「顧客満足度の向上」のような取り組みの成果を数値化することが難しい戦略目標でも進捗状況を可視化できるというメリットがあります。従来、企業が事業評価を行う際には、売上高や利益率といった財務的な成果だけを見て判断することが一般的でしたが、KPIを活用することにより、非財務的な成果も含めて多面的に事業を評価することが可能となりました。KPIは、具体的な進捗が把握しづらい定性的な戦略目標の進捗状況を定量的に評価できる指標に置き換えたものですので、設定にあたっては戦略目標との因果関係を議論した上で、さまざまな指標の候補から適切なものを選択することが重要となります。

 KPIは、現段階では企業による活用が中心ですが、行政機関でも施策の達成状況を評価するための道具として導入しはじめています。例えば、札幌市では2001年に「札幌市IT戦略」を策定していますが、2004年3月にKPIに基づいてこのアクションプログラムの効果に関する評価を実施しています。財政難の中で効率的な事業・組織運営を行い、その成果を具体的に住民に説明することが行政機関に求められており、今後もKPIの活用は広がっていくでしょう。

■図表 札幌市のIT戦略におけるKPIと達成結果の一例

ゴールKPI2004年度目標値最終結果達成状況
市民や企業の方々の視点から発想したサービスを提供する「ウェブシティさっぽろ」のアクセス数

「札幌市役所ホームページ」のアクセス数
「ウェブシティさっぽろ」約6万2000件/月

「札幌市役所ホームページ」約3万9000件/月
ウェブシティさっぽろ」約6万2000件/月

「札幌市役所ホームページ」約3万9000件/月
市発行メールマガジン定着率85%以上(2003年度以降)×
コールセンターのサービスレベル(一時回答率及び1件あたり所要時間)80%以上

5分
97.9%

3分23秒(年度平均)
資料:札幌市ホームページから抜粋

 国のIT戦略本部では2005年末から2006年初頭にかけて次期IT戦略を策定する予定ですが、戦略に向けた取り組み状況を評価するためにKPIを明示することになりました

 また、経済産業省は電子政府評価のために必要なKPIを整理した雛形モデルであるPRM(汎用業績測定参照モデル)というものを作成し公表しています。同省の外郭団体であるニューメディア開発協会が事務局となり全国16自治体からなる「情報システム調達モデル研究会」では、このPRMを用いた実証評価を実施しています

 このようにKPIは行政機関の取り組みを評価する上で有効な道具となりつつありますが、行政評価のライフサイクルであるPDCAサイクルと一体に運用してこそ価値を発揮するものです。計画(plan)の策定時にKPIを設定し、実行(do)の進捗状況をKPIで数値化し、その結果を評価(check)し、改善(act)に向けて生かします。そのためにも、KPIには次のような留意点があります。第一に、KPIには数値で定期的・客観的に測定できるものを設定することです。第二に、KPIの目標値と実績に乖離がある場合には、実績をより適切に表現できる別の指標をKPIに再設定できる柔軟性を確保することです。そして、第三に、組織全体でKPIの重要性を共有する仕組みを構築することです。